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TPPの危険性を理解できるサイト
URL   http://asread.info/archives/1651


  TPP問題に関しては知れば知るほど驚くことが多いのですが、中でも一番驚いたのは、国民の生活に深く関わるルール作りをする貿易協定について、TPPを 推進する米国企業の代表はいつでも自由に交渉内容を知ることができ、交渉内容に口を出すことができるにも関わらず、米国を含む参加国の議員が交渉内容を知 ることができない、ということでした。

 USTRの使命は通商交渉を通して米国の法律を世界に輸出することですから、強硬に要求を押し付 けてきます。しかしいくらジャイアンルールを押し付けてくるアメリカでも、合意し、批准してしまった国際協定で発生する義務には従わなければなりません。 もちろん交渉の内容によっては法律や規制に影響を与えてしまいます。交渉の方向性を、国民から選挙で選ばれ、本来憲法で通商交渉権限を保証された連邦議員 ではなく、企業のトップが勝手に決めてしまって問題にならないのか、と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。

企業のトップだけが知っている、その法的根拠

  実はこの方々が交渉の内容を知ることができることにはちゃんとした法的根拠があるのです。それは1974年通商法です。日本でもようやくTPA抜きでは TPPを語ることはできないという認識ができてきましたが、そのTPAと同時に1974年通商法に組み込まれた貿易諮問委員会制度のメンバーが、米国が提 案する協定文案に対して自由にアクセスすることができるのです。この貿易諮問委員会はUSTRの下部組織として存在しています。

 具体的 には大統領通商政策・交渉諮問委員会(ACTPN)、農業政策諮問委員会(APAC)、農業専門諮問委員会(ATAC)、産業貿易諮問委員会 (ITAC)、政府間政策諮問委員会(IGPAC)、労働諮問委員会(LAC)、アフリカ通商諮問委員会(TACA)、貿易・環境政策諮問委員会 (TEPAC)が、本来合衆国憲法により議会に権限がある通商交渉権を、TPAを通して一時的に大統領府に委任する際、政府の貿易政策や貿易交渉にアメリ カ国民の利益を反映させるために制定された組織です。[注1]連邦議員の推薦などによって選ばれた諮問委員は大統領のお目付け役として存在しているという わけです。

 中でも産業貿易諮問委員会(ITAC)の存在は大きく、USTRと米国商務省が協同で16の諮問委員会と各委員会の委員長会を運営しており、委員の数は300名を超します。その委員一覧を見ると多国籍企業や業界団体のトップがずらりと並んでいます。

  例えば科学、医薬品、健康化学製品およびサービスを取り扱うITAC3には「クロップライフアメリカ」という、モンサント社やデュポン社、バイエル社と いった名だたる遺伝子組み換え作物開発会社や、農薬会社が参加している業界団体の上級顧問の名前が見えます。この団体はステークホルダー会合にも参加し、 TPP協定により彼らにどのような利益があるかを訴えています。他にも、米自動車大手3社(ビッグスリー)で構成する米自動車政策会議(AAPC)の副議 長、イーライ・リリーの副社長、FedExの主任弁護士等、TPPが誰の利益のために交渉されているのかを考える良い手がかりになると思います。

  制定当時はまさか連邦議員に条文を見せずに通商交渉を行うなどと思いもしなかったのでしょう、TPA法に連邦議員が自由に交渉文書にアクセスできるという 文章が入っていないために、貿易推進の多国籍企業が交渉の内容に関与することができるのに、議会はごく一部の人間を除いて交渉文書を見ることすらできな い、という状況が生まれてしまったのです。

TPP協定の内容は米国のロビイストに聞け

  米国は企業のトップが大統領の諮問委員として米国の提案文書を書く勢いですから、マスメディアなどはTPP協定の内容に関して、USTRに直接取材するの ではなく、ロビイストや業界団体に取材をして情報を得るそうです。米国はそもそも自国の法律を変えるような協定を結ぶことはできませんので、自国の法律に ロビイストの要望を足したようなものが出てくるという話です。その米国の協定文案を元に各国が交渉するわけですから、米国の大企業のトップは交渉内容をほ ぼ知っているということが言えるのです。

 ですから、日本政府からの情報はどちらかというと確認作業として捉え、米国議会やUSTRの発表、業界紙、米国の業界団体のウェブサイト等が筆者にとっても主な情報源となっています。

日本の情報公開の現状

  日本政府としては国民とのコミュニケーションをなんとか取ろうと試行錯誤を続けているということです。確かに、主要な会合が行われた後に関連団体等に向け た説明会を行ったり、会合の後、頻繁に記者会見を行い、その内容を内閣府のウェブサイトに掲載したり、業界団体やNGOへの意見募集を行うなどの努力は、 十分ではないとはいえ、他の国と比較して評価できる部分はあるのかも知れません。

 今年2月27日にアップデートした資料を公開していますので、こちらを再確認しておくことをお勧めします。
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/siryou/150227ver_siryou.pdf

  とはいえ、そうした業界団体向けの説明会と、議員連盟などで国会議員に向けた説明はそれほど変わりません。ですから日本ではTPP協定で何がどのように話 し合われているのかを正確に知る人の数は非常に限られています。アメリカ以外の交渉参加国も似たような状況だと聞きます。

 交渉に直接か かわっていない人が憶測や願望で記者にリークまがいの情報提供をするものだから、ただでさえ情報がない中、誤報が連発され、記者は記者で一応裏は取って報 道しているつもりなので、国民は大いに振り回されています。特にTPP協定の影響が大きいとされる農家の方々の不安は大きく、むしろあまりにも大きすぎ て、離農を考えてしまうのでもう考えたくない、という声も聞こえてきます。

さらなる情報公開に期待

  交渉文書へのアクセスについて現状分かっている範囲でもう少し詳しく説明すると、前述の諮問委員会の人たちが見ることができるのは、正しくは交渉文書では なく、米国からの提案であり、分野によってはもう2年も更新されておらず、実際の交渉がどのようになっているのかが分からず、諮問委員会の人たちも同様に 不満を抱いている分野があるとのことです。

 現在、ロン・ワイデン前上院財政委員会委員長が2012年5月23日に提出した「議会による 貿易監視法案」[注2]をはじめ、連邦議員の度重なる強い要求や一般市民からの抗議により、米国の議員は様々な条件付きながら、党派に関わらず交渉文書を 見ることができる状況になっています。2013年6月に交渉文書を読む機会を得たアラン・グレイソン議員の感想をご紹介します。[注3]

この交渉文書を秘密にすることに何の国家安全保障上の目的はない。
この協定は我が国の主権を企業の利益に渡してしまうものだ。
アメリカ国民に伝えることができないのは「これ以降の文章は機密事項」だ。

 言替えれば、特に理由もなく、国家主権を手放す内容の交渉だが、その内容については全て秘密だ、ということになります。

  一方で、交渉の透明性を高める取り組みの一環として、昨年2月にそれまで推薦されない規定だった労働組合の代表がITACメンバーに選任を許されることに なりました。[注4]同時に学者やNGOなどが委員となる公共利益貿易諮問委員会 (PITAC)の設立も検討されましたが、こちらは保秘義務契約によりNGOの活動が制限されかねないことや、肝心のITACとの会合が持てないため、ガ ス抜きに他ならないと非難が殺到し、今のところ新しい動きはありません。

 最近では2015年2月9日にロイド・ドゲット議員からフロマ ン氏宛に出された書簡には、自分のスタッフを同行させて、米国を含む各国の立場が分かる交渉文書を、メモを取りながら調査することを要求していますので、 現在も議員が一人で、写真やコピーはおろか、メモすら取ることができない状態だということが分かります。[注6]

 彼の訴えはオバマ政権により即座に退けられてしまいましたが、近々提出が予想されている米国のTPA法案には、必ず連邦議員の交渉文書への自由なアクセスを保証するような内容が含まれることでしょうから、そうした状況が改善されることを期待します。

  制約付きながらも国民の代表が交渉文書を見られる米国と違って、日本をはじめ、他の交渉参加国の議員は未だ交渉文書を見ることが許されていません。もちろ ん、日本の国会議員も再三にわたって交渉内容を確認させるよう政府に要求はしていますが、日本政府の答えは遅れて参加した日本としては他の国の方針に従わ ざるを得ない、というものです。

 しかし、米国の議員が交渉文書へのアクセスを確保した暁には、日本やその他の参加国の議員が読めないと いうことは通らない、ということになりますし、協定文書に関わる人が増えれば、詳しい内容も出てくることになるでしょうから、いよいよTPP協定交渉の内 容が白日の下にさらされる日も近いかもしれません。

参考文献:
注1:USTR諮問委員会
https://ustr.gov/about-us/advisory-committees
注2:ロン・ワイデン上院議員提出「議会による貿易監視法案」(2012年5月23日)
http://www.wyden.senate.gov/news/blog/post/iycmi-wyden-statement-introducing-congressional-oversight-over-trade-negotiations-act
注3:I saw the secret trade deal (2013年6月8日)アラン・グレイソン下院議員
http://alangraysonemails.tumblr.com/post/53325968066/i-saw-the-secret-trade-deal
注4:USTR To Open Rechartered ITACs To Labor Unions, Upholds Lobbyist Ban (IUST)2014年2月27日
注5:NGOs Blast PITAC As Not Adding Sufficient Balance To Advisory Panels (IUST)2014年4月3日
注6:Democrat Says Obama Administration Dodging Request To Read Trade Deals Without Restrictions (Dana Liebelson) 2015年2月13日
http://www.huffingtonpost.com/2015/02/13/lloyd-doggett-tpp-trade_n_6680624.html