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 高橋清隆さん記事;

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 アマゾンの闇


 本を出す度、やりきれない気持ちにさせられるのが、Amazonの対応だ。米国生まれのこの会社には支配権力の影がつきまとうが、世界一のインターネット書店である以上、避けては通れない。それで、執筆意欲をそがれている。

 わたしは12年7月に『亀井静香——最後の闘いだ。』(K&Kプレス)を上梓した。しかし、9月に入ると、「在庫なし」の表示に切り替わった。版元の契約倉庫には、在庫が山積みになっていた。

 理由は恐らく、「石原新党」の立ち上げがささやかれ始めたからだろう。解散総選挙になれば、仕掛け人である亀井氏への注目ががぜん、高まる。対米自立を公然と主張するわが国唯一の政治家に宗主国の大企業が意地悪をしているとみるのは、勘繰りすぎだろうか。

 「そんなの、陰謀論だ」。こう言いたい読者も多いかもしれない。このような疑念をお持ちの方には、2、3の事例を挙げておく必要がある。『拒否できない日本』関岡英之(文春新書)は04年4月に発売されたが、05年10月の郵政民営化法案可決まで「在庫切れ」が続いた。郵政民営化も明記した「年次改革要望書」の存在を広く知らしめた傑作である。

 わたしが08年10月に出した『偽装報道を見抜け——世論を誘導するマスメディアの本質』(ナビ出版)は大抵の期間、「在庫切れ」だった。この出版社は家族経営の零細企業で、後に廃業する。気の毒なことだが、販売力に欠けるためかと思われた。

 しかし、10年6月上梓の『亀井静香が吠える 痛快言行録』(K&Kプレス)も不可解な扱いを受ける。発売3日後、人気論客の植草一秀氏のブログで紹介されると一時、Amazon総合で50位台に入った。すると「一時的に在庫切れ」表示に変わったまま、1カ月以上を経る。売り上げに最も重要な時期だ。倉庫には大量の在庫があった。

 植草氏もブログでAmazonの対応に疑義を呈している。不自然な「在庫切れ」のほか、読者レビューが載らない、ランクに表示されないなど。こうした不可解な対応はネット上で「Amazon八部」などと称され、都市伝説として扱われている。

 わたしは『偽装報道を見抜け』を出した後、「在庫なし」表示にしびれを切らし、同社に接触を試みたことがある。同社のホームページには電話番号が記載されていない。著者として連絡を取るにふさわしいメールアドレスも表示されていない。

 唯一の連絡方法として、こちら側の電話番号を記入すると折り返し掛かってきて、メッセージを録音しておくというものがある。同社にメリットがあると判断された場合のみ、連絡をするという仕組みだ。試したが、掛かってこなかった。

 納得がいかないので、同社の所在地を調べて乗り込む。渋谷の外資系保険会社のビルの3階にあった。かつて老舗の国産保険会社が所有していたノッポピルで、わが国で最初に外資に買収された保険会社の本社だった。

 会社には改札のようなゲートがあって、通行証がないと入れない。受付で用件を告げると、女性は「お約束ですか」と聞いてくる。「いいえ」と答えると、「お約束のない面会は一切対応していません」とくる。素朴な事情を話して「どう思うか」と尋ねても、マニュアル言葉の繰り返し。ロボット人間を使った鎖国企業と悟った。

 『亀井静香——最後の闘いだ。』はAmazonで発売直後の意地悪がなかった。もともと流通が引き取りを少量にしたから、その必要がなかったのかもしれない。版元の営業担当は、大手流通会社に「亀井さんは終わった人でしょう。テレビ出てないじゃん」と言われたという。

 だからこそ、わたしはせめて書籍で亀井さんのすばらしさを訴えようとしている。「石原新党」がマスコミで取り上げられると、Amazonの「在庫なし」表示の意地悪も始まった。著者として苦情を述べるルートがないので、出版社に接触をお願いした。担当者がAmazonにメールを入れると、何と「e託販売サービス」を勧められた。

 これは自費出版や企業の広報誌など、一般流通市場に乗らない出版物を50%の手数料を支払うことでAmazonのサイトに載せるもの。自身の落ち度を棚に上げ、別のサービスを売り込むとは何事か。版元の担当者は対抗策として、中古市場に新品を出した。メッセージ欄に「アマゾンの補充が遅いため」と記した。

 この皮肉を看過しているところは間抜けである。植草氏がブログで自著に対する不可解な対応を書き込んだら翌日改善したのと同様に映る。やり口が繊細さに欠くのである。

 中古市場活用への報復だろうか、レビューが一つ消えた。最初に掲載された5つ星の評価で、絶賛してくれている投稿文である。この時点でレビュー数は5つ。2つは4つ星、3つが5つ星だったため、トップに平均の5つ星で表示されていたが、それが崩れた。

 著者として連絡するメールアドレスがないので、ピントはずれた「問い合わせ」欄からその旨を書いて送信する。が、何の対応も取られず、2カ月以上がたった。

 Amazonの不可解な対応については、告発する書籍や記事が皆無だ。作家として自著の円滑な出版を損なう危険があることは、書かないのが賢明だからだろう。書籍流通業界と相互に深い関わり合いを持つ新聞や雑誌がその手の記事を出さないのも自然なことである。

 一方、インターネット書店は他業種と同様、寡占化の一途をたどるだろう。ただでさえ、「Amazonに出品されていない本は世の中に存在しないのと同じ」(同社ホームページより)状況である。著者が不満を感じ、別のネット書店だけを頼みにするというのは自殺行為だ。

 誰もが、この世に正義があると信じたい。だが、言論を交通管理する主人が悪意を持って差配しているなら、良書を物しても世の展望は暗い。