整理がわるくて、流し読みしたきりずっと行方不明になっていた『赤い盾』が出てきてしまったので、昨日しなくてはならないことが山積しているというのにかなり長い時間読んでいました。

 赤い盾というのはロスチェイルド家の紋章のこと。著者は広瀬隆さん。

 広瀬隆さんは、原発のようなものがなぜ推進されるのかを調べていて、この閨閥の存在にたどりついたのだと聞いています。

 高校のときに、音楽の先生がすばらしくて、スライドをたくさん用意してきてくれていて、「モルダウ」を聞かせながら、上流のときには上流の写真、下流のときには下流の写真を見せてくれたり、グレゴリー聖歌のときにはその時代の司祭と両脇のおつきの人の絵を見せてくれたり。

 「運命」については最初のあのあまりにも有名なイントロを、フルトヴェングラーとカラヤンと比較するため両方聞かせてくれました。フルトヴェングラーの振り方は、たっぷりひっぱって重厚で劇的、カラヤンはポピュラー音楽のような軽いタッチ。人格の厚みのあるなしをまで推測させる著しい違いでした。

 ところがその後、フルトヴェングラーはナチスに協力していたのだと聞きかじって、信じられないというおもいに駆られたことがありました。

 そのいきさつがまさか『赤い盾』に書いてあるとは。

 フルトヴェングラーは政治音痴で、ナチスの正体に確かに気づくのが遅すぎたけれども気づいた後は徹底的に抵抗したというのです。

 ナチス記念日の祭典「意志の勝利」で、予定されていた指揮を拒否、さらに翌日、ワグナーを嘲笑したバウル・ヒンデミットの作品「画家マチス」―反ナチス的曲を振った―こんなことがあったそうです。そしてそれまで就いていたナチスの中での“名誉”ある地位―ドイツ音楽局副総裁と枢密顧問官を辞職したそうです。

 これに対し、カラヤンはナチスの党員証を常に携帯し、ナチスのあらゆる儀式で振り続けていた。驚くべきことは、1981年にインタビューに応じて、こう言ったというのです。ナチスの党員であったことを何も悲しいとは思わない。同じ状況に置かれれば、今でも私は同じ行動をとるだろう。したいことをするためには、人殺しでもするのだ。

 カラヤンのほうがよほど筋金入りのナチス協力者だったということは、今の今までなぜか知らないままできてしまいました。

 この後広瀬さんは、歴史・社会状況と密接に絡み合うクラシック音楽全般への疑問―少なくとも注意しなければならないものだという趣旨のことを書いています。

 ――多くの人はこれまで「哲学がなくともメロディーは生まれる。それこそ音楽の魅力だ」こう考えようとしてきた。ところが史実を知れば、どのように礼装で着飾り多少の音感を取得しようと、意味もないことが分かってくる。