上掲のように統計数値を表示すると、明らかに幾分の歪みが生じることは避けられない。A (H1N1)インフルエンザに起因するとされた死亡者数は、当然4月にA (H1N1)が特定されて以降の期間でのみ示された数値である。それらの数値は、(未だ未完の) 本年全体のものではなく、又近づきつつある北半球での毎年の流感季節に関連する数値も何ら含まれていない。この流感季節には、きっと例年より多くのインフルエンザ関連の死亡者が出るであろう。なお、上掲の統計には他のインフルエンザ・ウイルスに関連した数値が含まれていないことは云うまでもない。

今後は、冬季の到来につれて、更に多くのインフルエンザ感染罹病者と死亡者が出て罹病死亡率が増大することは確実である。しかも、A (H1N1)ウイルスがより致命的な変種に変異することも常にありうる。これは、まさしく1918年スペイン風邪のウイルスに起ったことである。しかし、現在のところ、WHO [世界保健機関]CDC [米国疾病対策センター]も、A (H1N1)が他の季節性インフルエンザより致命的なものになるとは予想していないようである。

この際、留意すべき決定的な要点は、インフルエンザのあらゆる変種が毎年何千もの人命を奪うことである。米国では、平均的に毎年約36,000人ほどがインフルエンザで死亡しており、それはニューヨーク市だけでも1,100人に達する。世界全体では、インフルエンザ関連の死亡者は毎年25万人から50万人の範囲になると推定されている。今年は、これまでのところ、世界全体で僅か3,000人ほどがA (H1N1)の発生に関連して死亡しており、しかも、その殆どが南半球での流感季節に生じているのである。統計的観点からは、A (H1N1) インフルエンザは現在のところ背景騒音の域を出ないと云っても過言ではあるまい。

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[翻訳者注] 以上の翻訳文中 [・・・] 内の語句は翻訳者の補足である。STRATFOR (Strategic Forecasting, Inc.)については [http://www.stratfor.com/about_stratfor ] 及び [http://en.wikipedia.org/wiki/Stratfor ]を参照せよ。なお、以下本文中の脚注数字は資料選集の各資料先頭番号を示す。

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