詩人・阪田寛夫について、詳しく知ろうと思ったときに、『阪田寛夫全詩集』は抜かせない本です。

 

この本は、編集者・伊藤英治さんの命を削る大変な努力があって出版されたものです。実際に、16年の歳月をかけて編集したたこの本、刊行をみることなく直前に亡くなられています。1000ページを超える本。阪田さんの詩1087篇が収録されています。

伊藤さんの「あとがき」は50ページあまりもある長文。研究論文と言ってもいいでしょう。この「あとがき」を読めば、伊藤さんがいかに阪田寛夫さんを敬愛されていたかもわかります。阪田さんと伊藤さんの本と言っていいでしょう。

(若き日、ぼくが世話になった児童文学界の大切な先輩です。)

 

 
この本の中から『川と少年』の組詩を写しとっています。昨日に続きのその②。

 

組詩『川と少年』(阪田寛夫)には6曲の詩があります。

1.どんぶらこっこ

2.お化け煙突

3.空の川

4.水の匂い

5.「絶対に」は否定の副詞

6.ばくは川

 

今日はその②として、「どんぶらこっこ」と「お化け煙突」を紹介します。

 

1.どんぶらこっこ

どんぶらこっこ すっこっこ

どんぶらこっこ すっこっこ

桃をはこんだ桃の川

花びら浮かべて隅田川

母なるヴォルガはエイ・ウッフ・ニィェム

綿の花咲くスワニー川

トムソーヤーのミシシッピー

ウィ—ンにシューネン・ブラウエン・ドナウ

名前のある川 名なし川

過去と未来のさかいめに

かすかな雲の影うつし

どんぶらこっこ すっこっこ

いま流れてる すっこっこ

いまこっこ

いまこっこ……

 

出だしは「桃太郎」の昔話、どんぶらこっこ   おばあさんは川へ洗濯へ。すると...

 

滝廉太郎の「花」♪春の麗ららの~隅田川  (作詩は武島羽衣、作曲者はあまり知られていないのは、筆禍事件もあったから? 滝廉太郎は、23歳の若さで肺結核のために亡くなっています。夭逝(ようせい)故に悼む気持ちもるのかもしれません)

 

ヴォルガの舟唄 ♪エイ、コーラ(ロシア語だと♫エイ ウッフニェム♫) 人夫たちが過酷な舟曳きに従事していました。

ぼくは、若き日に「歌声喫茶」でヴォルガの舟唄をみんなで歌いました。♪アイダダアイダ♪と重苦しい歌声でした。

 

トム・ソーヤーの冒険ならミシシッピーだ。アメリカ南部のミシシッピー、行ったこともないけれど、マーク・トウェインの小説、アニメ、映画とそのイメージは強烈です。自然豊かな川のほとりの小さな町で主人公の少年トマス・ソーヤーが、ハックルベリー・フィンをはじめとする仲間たちとともに、さまざまな冒険を繰り広げる魅力的な話。

この川は、ミネソタ州を源流とした世界4位の長大な川。

 

はるかなるスワニー川~「故郷の人々(スワニー川)」フォスター作曲。

何故か、フォスターの曲は懐かしい。子どもの頃からテレビで流れていたり、小・中学校の授業でも歌ったような気がします。「黒人奴隷」などということばが浮かんでいます。

スワニー川はアメリカ南部のフロリダ州にあるんだと知りました。

 

ウインーンのドナウ川、青く美しきドナウ。音楽のあふれるウイーン。ここもまた行くこともないなあ。アノ寅さんは、行っています。だから、葛飾区と友好都市になってもいます。ただ、川辺のほとりと言っても、江戸川とドナウ川ではかなりイメージは違います。

「それをいっちゃあ、おしめーよ」って言うかな、寅さん。葛飾青戸から立石にかけて、モーツアルト通りもあれば、モーツアルトホールもあります。

 

この銅像は、葛飾のモーツアルトホール前のもの。
 

 

 詩を読み、情景に合う画像を貼ってみました。

音声表現の手助けになるでしょうか。

 

2.お化け煙突

四本煙突がありました

うちから見れば三本で

鉄橋からだと二本に見え

土手におりると一本になった

川にはカニやカエルがいて

泥んこになって追っかけた

ふと気がつくともう夕方

バケツかかえて走って駆けた

煙突が三本に見えるまで

ーー父ちゃんが子供のころの川

 

お化け煙突消えた川

土手はコンクリートで固められ

水はギトギトくさくって

カニモカエルももういない

でも、橋の上から眺めると

鉄橋の向こう、山が霞んでいるあたり

でっかいオットセイが見えるんです

川原いっぱいあぐらをかいて

カニを千匹掘ってます

ほら お尻ぬらして遊んでいます

 

おーい おばけオットセイ

お化け煙突何本見える?

一本かあ?

二本かあ?

三本かあ?

四本かあ?……

「千本だあ!」

 

かつて東京・足立区に「お化け煙突」と呼ばれたものがありました。隅田川と荒川に挟まれた地です。それはひし形に建てられた4本の煙突のある千住火力発電所。

見る場所によって、1本から4本まで変わるので、「お化け煙突」と呼ばれていました。

 

 

このお化け煙突は、川からの不思議な眺めとして親しまれてきましたが、1963(昭和38)年に老朽化したために解体されました。映画や小説の舞台にもなっています。「こち亀」にも登場しています。両津 勘吉が小学校時代の思いでとして描かれています。

中川に語ったことば。

「壊されるときはあっけないものだぞ。本当にお化けのようにすっと消えてしまったよ、あの煙突」「下町っこには、あの煙突は思い出だらけだよ」