オノマトペ(声喩)を楽しもう 

  ~「きもち」(さくらももこ)

   「つるつるとざらざら」「どきん」(谷川俊太郎)

 

谷川俊太郎さんの詩『どきん』は、3年生の光村「国語」教科書の最初の詩。それを読もうと思ったとき、本来ならば、この学年に『どきん』を置いた編集者の意図はどこにあるだろうかということが気になりました。

 

「どきん」というのはオノマトペ。この詩の特徴であるオノマトペ(声喩=せいゆ)を楽しむのは、3年生だけに限ることではありません。オノマトペは日本語だけにあるものではないけれど、その数が豊富なことが日本語の特徴です。

そこで、3つの詩を続けて読むというアイデアで展開しました。もちろん、3つの詩をそれぞれに、子どもたちと読む子ができるのだから、3年生だけに限定しなくてもいいんじゃないかなあ。

ぼくは、『きもち』(さくらももこ)は1年生でも読んで楽しみました。自分の主張する”デザート授業”(短い時間でことばを楽しむという意味)にぴったりの詩だから、どの学年でもできます。新学期のこの時期、オノマトペであそんでみましょう。

               

オノマトペ(声喩)を楽しもう

 

1.「きもち」さくらももこ

金曜日、学校現場の(もちろんそれ以外の人もですが、どうしてもそこに気持ちがいきますね)仲間たち、ほっとしての気分で子どもたちの前に立っているんだろうなあ。

「ハナ金」ということば、かつてあったけれど、今の学校現場はちょっと違う感じがします。「イキ金」という感じかな。このイキは「息」=やっと息がつける金曜日、「生き」=今週も生きていた金曜日、「遺棄」=放ってしまった金曜日……ああ、ツライ漢字しか当てられない。
「週末のどっちかも学校に来るから、今日は早く帰るぞ!」なんて思っても、すでに夜8時過ぎ、あ~あ。

粋な金曜日にしましょ!!

気持ち、気持ち、きもち、きもち、ということで、「きもち」さくらももこを楽しみましょう。

      きもち
         さくらももこ
  やさしいきもちは
    (      )してる
  こわいきもちは
    (      )してる
  さみしいきもちは
    (      )してる
  うれしいきもちは
    (      )はねる


ことばの感じ方は人それぞれなところがあるので、それを大事にしながらも、それを語り合いながら、つくりあげたイメージをオノマトペとして音声にのせます。ここはさくらももこさんのイメージを借りることになります。

 

ここは「応答」(やりとりのある学び)として読みます。
ぼくが「やさしいきもちってどんなものかなあ」と問いかけると、子どもたちは自分の体験や経験から語り始めるでしょう。
「人に親切にするとき、やさしいきもちになる」、「小さい子が泣いてると、やさしく声をかけたくなる」、「きれいなもの見てると、やさしくなる」……。

「じゃあ、みんなの目の前に、ここに“やさしいきもち”がある、そう考えてみて。それに触ってごらん。そうしたらどんな感じがするかな。」
ぼくは、子どもたちに向かって、両手を広げて、体の前で大きく丸を描くようにゆっくり腕を回します。目の前に大きなやさしい気持ちが見えるかのように。


子どもたちの感じ方はさまざまだから、子どもたちの発することばは様々だから、安易に誤りと決めつけないこと、その子なりのセンスを受け止めあいます。これこそが教師に求められることです。多様さを認め合うことが教室のベースにないと、学びの豊かさは生まれないでしょう。

 

さらにできれば、子どもたちが出してくれたイメージのことば(オノマトペ)は身体表現につなげます。


《オノマトペ(声喩=せいゆ)とは、“ワンワン”などの擬音語擬声語や“しいんとする”などの擬態語を包括的にさす言葉。日本語に多いとされる。宮沢賢治はこのオノマトペの名手だった》


「この詩では、さくらももこさんはこういっています」と言って、「ふわふわ」を書き込みます。
そして、この「ふわふわ」を子どもたちと一緒に身体表現してみます。

「こわいきもち」(=ぶるぶる)、「さみしいきもち」(=ほそぼそ)、「うれしいきもち」(=ぴょんぴょん)も、同様に展開します。やり取り(応答)、表現が多様にできます。
子どもの身体表現は面白く、かつ可愛い。ぼくの問いかけに、喜々として応えてくれる子どもたちです。

教師の問いかけの部分は、子どもの表現につながるように、表情も、テンポも、間も、工夫して楽しまないとね。まずは教師の表現が問われます。表現の応答でもあるのですから。

 

<②谷川俊太郎さんの「つるつるとざらざら」もオノマトペの詩です。子どもの実態を感じながら、子どもと遊べそうだったら、学年を考えてそれも楽しみましょう。>

 

2.「つるつるとざらざら」谷川俊太郎

「きもち」に続けて、オノマトペを楽しむ詩を。3年生の子どもたちと読みあった授業より。題名と各連の2行だけをかき、(  )の部分は空けておきました。

 

   つるつるとざらざら

       谷川俊太郎

つーるつる つーるつる

つるつるすべるの なんだろな

(こおりに せっけん すべりだい)

(しゃぶったあめだま はげあたま)


ざーらざら ざーらざら

ざらざらするのは なんだろな

(とおさんのおひげに かみやすり)

(こぼれたおさとう くつのすな)

 

べっとべと べっとべと

べとべとくっつく なんだろな

(みずあめ はちみつ いちごじゃむ)

(なめたきってに セロテープ)


がったがた がったがた

がたがたするのは なんだろな

(おんぼろじどうしゃ こわれたUFO)

(はずれたあまどに ゆるんだいれば)


ふんわふわ ふんわふわ

ふわふわふんわり なんだろな

(こぐまに こうさぎ ベッドのふとん)

(そらにうかんだ しろいくも)

 

さあやさや さあやさや

さやさやいうのは なんだろな

(みえないかぜが ふいてくる)

(たけやぶならして ふいてくる)

 

   1連です  つーるつる つるつる

前半部分は問いかけですから、ぼくが読みます。

「つーるつる つーるつる つるつるすべるの なんだろな?」と子どもたちに問いました。谷川さんの感覚はそれとして置いておいて、子どもたち自身の感覚のことばを待ちます。

 

「すべりだい」というタカシくんの発言をきっかけに、どんどん出ました。

「こおり」(カズヤ)、「しんじゅ」(アスカ)、「ゆか」(ハルカ)、「せっけん」(マサユキ)、「はげあたま」(マサキ)、「アイススケート」(タカトシ)、「スケート」(ユキナ)、「カーリング」(ジュン)、「黒板」(アツナ)、「ビニールぶくろ」(リナ)、「まど」(ヒナコ)、「うどん」(ワタル)、「はだ」(アオイ)、「じゃぐち」(ユウキ)、「一円玉」(ヒロフミ)。

 

手をあげている子は全部聞きました。

「みんなのイメージはいろいろあって、どれもよ~く考えてみるとなるほどなと思ったよ。谷川さんは、なんて書いているかというと……」

 

こう言って、1連の後半を書きました。子どもたちが視写できる速さです。

 

(こおりに せっけん すべりだい)

(しゃぶったあめだま はげあたま)

 

谷川さんと子どもたちの感覚の近さに驚きます。

 

   2連 ざーらざら ざらざら

2連です。「ざーらざら、ざらざら」するものをどんどん出してもらいました。

・ざる(しゅうご) ・すな(マサキ) ・すなつぶ(タカシ) ・かみざら(タカトシ) ・がようし(ヒロフミ) ・木のかわ(ケイスケ) ・どろんこ(アツナ) ・ぬの(アスカ) ・かみやすり(マサユキ) ・きゅうり(アオイ) ・ひげ(シュウゴ) ・ごうや(ケイスケ) ・さとう(リョウタ) ・木のえだ(ヒナコ) 。ほうちょうとぎ(コウヘイ) ・とんぼのはね(ヒロキ) ・ポテトチップス(タカシ) ・石(タク) ・消しゴムのカス(シュウゴ) ・ぼさぼさ頭(マサキ) ・わにのひふ(ヒロフミ) ・さてつ(ジュン) ・あみ(アスカ) ・うろこ(マサユキ) ・からだ(ワタル)

何度も発言する子もいます。ていねいに聞きましょう。

下線を引いたものは谷川さんもあげています。

 

(とうさんのおひげに かみやすり)

(こぼれたおさとう くつのすな)

 

  3連 べっとべと べとべと

3連です。

・ボンド(ミヅキ) ・ガム(メグミ) ・はちみつ(サクラ) ・なっとう(リョウスケ)

まだ発言していなかった子たちが声を出しました。

・もち(マサキ) ・いちごジャム(コウヘイ) ・スライム(ヒナコ)  ・みずあめ(アスカ) ・セロテープ(マサユキ) ・のり(ユキナ)

こう出たところで、書きます。

 

(みずあめ はちみつ いちごじゃむ)

(なめたきってに セロテープ)

 

「なめたきって」を書く前には、ぼくはジェスチャーをしました。楽しく読み続けるためには変化をつけます。

   4連がったがた、5連ふんわふわ、と

この二連でもたくさんのイメージするものを子どもたちは出しました。

 

4連での子どもたちのことばは省略。

(おんぼろじどうしゃ こわれたUFO)

(はずれたあまどに ゆるんだいれば)

 

5連のイメージの最初にヒナコさんが「ふんわふわ、ふわふわするのは、くも(雲)と言ったとき、ぼくは谷川さんも子どももすごいなあと、鋭さにドキッとしました。発言は省略します。

(こぐまに こうさぎ ベッドのふとん)

(そらにうかんだ しろいくも)

 

   6連 さあやさや さやさや

最終の6連です。

アツナさんが「さやさやって、笹の葉が鳴る音なんだよ」といいます。それを受けてアオイさんが「風がさやさやと音をたてるの」とつぶやきます。

二人とも、手をあげての発言ではありません。自然に対話になっています。

ぼくはこうしたつぶやきがみんなの中に受けとめられていくを大事にします。

この二人が語ってくれたイメージだけでもう十分だと思い、6連を書きました。

 

(みえないかぜが ふいてくる)

(たけやぶならして ふいてくる)

 

6連まで書き写した後は、音読です。立ち上がった子どもたち、体をゆすって、気持ちよさそう発声していました。リズムが身体に入っていきます。

        キラキラ   キラキラ   キラキラ

(この授業の記録を綴った『らぶれたあ』(学級通信)を読んで、保護者のMさんが“L・L”(Love etter)(保護者からの手紙をこう呼んでいました)を寄こしてくれました。)

 

 ブルーハーツ189号、190号の『らぶれたあ』(三年生)の「つるつるとざらざら」、面白いですね!私も答えを見ないで考えてみました。

 つるつるは、せっけんかな?(マサユキくんと同じ!)

 ざらざらは、かみやうりかな?(またまた、マサユキくんと同じ!)

 べっとべとはガムテープかな?(いない…。でもがったがたのはずれたあまどって、みんなはわかるかな?)

 ふわふわはふとん!…でも、さあやさやは思いつきませんでした。アツナさんやアオイさんはスゴイなあ!

 あらためて詩を読むことは、周囲の大人の導入が大切なんだなあ、と思いました。

 私はこの間の読み聞かせで、「無関心にならないで」というメッセージを込めて「ある男」(谷川俊太郎)という詩を読ませてもらいましたが、こちらのメッセージを押し付けてしまったから、あまりみんなの心に響きませんでした。そのわけがこの『らぶれたあ』を読んでよくわかりました。

 こんな国語の授業って、なんだかいいですね♪グリーンハーツ

 

ぼくはMさんの「L・L」に対して、次のように返しました。

「『周囲の大人の導入が大切』―-子どもたちは詩教材を知らないけれど、大人(教師)は知っている。こんなとき大事にするのは、共に学ぶことを楽しむ、その学び合いの場・時間を大切にするということです。そうすれば、自ずと道筋は見えてくる――Mさんのことばを受けて改めて考えていることです。」(3・2)

 

子どもたちと読みあうだけでなく、保護者の方たちも読みあっていた教室でした。

 

 

3.『どきん』谷川俊太郎

 

谷川さんの「どきん」です。

これもオノマトぺ(声喩)を生かした詩です。プリントを用意しました。

1~10の「穴あき」は、出会わせ方を考えたからです。この手法で、子どもたちはに考えてもらいます。手がかりがないと難しいかと思うので、ヒントとして(A~J)のことばを示しておきます。「この中から選んでみよう」というわけです。

 

  

さわってみようかなあ ~~ 

   (こんな感じだよ)~~ つるつる 
おしてみようかなあ  ~~ 

   (まず少しだけ)~~ ゆらゆら
もすこしおそうかなあ ~~ 

   (揺れが大きくなった)~~ ぐらぐら
もいちどおそうかあ ~~ 

   (そんなにおしたら)~~ がらがら
たおれちゃったよなあ ~~ 

   (わらってられないのに)~~ えへへ
いんりょくかんじるねえ ~~ 

   (じめんが揺れたみたいだよ)~~ みしみし
ちきゅうはまわってるう ~~ 

   (大きく大きく力づよく)~~ ぐいぐい
かぜもふいてるよお ~~ 

   (きもちいい)~~ そよそよ
あるきはじめるかあ ~~ 

   (地面に足うらをつけて)~~ ひたひた
だれかがふりむいた! ~~ 

   (びっくり、どっきり)~~ どきん


( ****** )のようなヒントを出してもいいかな。

 

オノマトペ=声喩(せいゆ)

A~Jのようなことばはオノマトペ(声喩)と呼ばれます。

これを分類して「擬音語」(ワンワン、チューチュー、ガッシャンなど)、「擬態語」(しいんと静まる、雨がしとしとふるなど)とすることもあります。しかし、この二つはきっちりとは分けられません。だから、まとめて「声喩(オノマトペ)」と呼ぶ方がいいのです。

 

ましてや、一部の「国語」教科書のように「擬音~カタカナ」、「擬態~ひらがな」と表記するとの記述はどうかと思います。そうした機械的な適用は実際のことばの豊かさを失くします。

カタカナを使うか、ひらがなを使うか、はたまた漢字を使うかは書き手(表現者)に任されなければなりません。

(声喩の豊かな使い手だった宮沢賢治は、詩「原体剣舞連」のなかで、アルファベットで」太鼓の音を表現しています。dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah)花巻の農産物販売所~農協の直売店~の名前は「だあすこ」です。賢治のことばからとっています。ああ、行きたいなあ)

 

子どもたちに育てたいのは、自分の実感を伴った声喩です。

「どきん」では、ここの A~J は、“谷川さんの場合は”という限定がつきます。それぞれの故人が別の声喩がぴったりする場合もあるでしょう。

 

しかし、読んでいくと、“さすがに谷川さんだ!”と思えてきます。詩人の感覚から学ぶことは、自分なりの解を探すことと一体です。

 

(オノマトペをあそぶ3編の詩のデータにワークシートをつけたデータをつくりました。

希望の方は、次のアドレスまで連絡を。

→ shimomura-sanni@jcom.home.ne.jp  シモムラ・サンニ まで)