宮崎かづゑさん、その名前を冠したタイトルのドキュメント映画です。
ハンセン病回復者である94歳のかづゑさんは、10歳の時にハンセン病を発症し、岡山県瀬戸内海にある長島愛生園に入園しました。以来84年間、この場所で暮らしています。
監督の熊谷博子さんは、ひょんなことから、長島愛生園で暮らすかづゑさんに会い、その後8年間にわたって生きる姿と語りを映像に撮ってきました。
ハンセン病の元患者の方たちが、過酷な人生を強いられたことは、歴史的な事実なのですが、かづゑさんは、多くの場合に付きまとう隔離や差別への負の感情をはるかに遠くに置いて来た生き様を見せてくれます。
魅力的な生き方をしている超高齢女性が愛おしくて、その人の人生に却って励まされました。
3月2日(!)、この映画『かづゑ的』は、東中野の駅近くポレポレ座で公開されました。その日にぼくは観に行くことはできなかったけれど、上京中のイトコのS氏がそれを観て来たばかりということで、新秋津前まで来てもらい会いました。
そのイトコ氏とは、昨年11月末に九州の実家へ行ったときに、二人で熊本県合志市にあるハンセン病療養所・菊池恵楓園に行きました。ぼくは2回目、彼は初めて。声もなく中を歩きました。
そう、その少し前、故郷に帰る前に、長島愛生園にSU~さんと行きました。ぼくは3度目、SU~さんは初めて。
どちらの療養所も、コロナ禍の影響で、ほとんど人が歩いていない静かさと穏やかさがありました。
とくに、長島は、瀬戸内の海、光、しまなみの光景が美しく、今回の映画ではたっぷりとそれらが描かれます。この光景を観るだけでも、長島に行く意味はあります。
ハンセン病について知らない人が多い。知っていても、その負のイメージが強く、恐ろしさが強くイメージされるでしょうが、『かづゑ的』では、そのイメージを一変させるような魅力的なおばあちゃんの生きざまに数多く出会います。
冒頭から、ことばと姿に圧倒されます。
「らい(かづゑさんはハンセン病ということばをつかいません)を撮るっていうことは、全てを撮らなければ、私のからだってわかりませんでしょ」
そう言って、お風呂に入る裸の自分をすべて撮影させます。
両手指がすべてなく、片足も膝下がない、右足先もない、その体全身をカメラの前に差し出します。観ているぼくの方が、体が硬直しました。
ぼくはハンセン病について学ぶときに「知らないことは罪である」という、半ば脅迫的かともいえる強い言葉を使ってきましたが、この映画では、自然体で夫の孝行さんとのかかわりも含めて登場していて、「知ってヨカッタ」と素直に思います。
受付で、『かづゑ的』公式パンフレットを買いました。1000円。(『やわらか本』の発行日と同じ2024年3月2日の日付デス)
これは、ハンセン病関連資料もあり、テキストにもなります。
けれど、このパンフレットがいいのは、”泣いて笑って、元気になるハンセン病映画”(熊谷監督のことば)の大本にあるかづゑさんの魅力があふれる「かづゑ語録」にあると思います。(この頃、物忘れが激しい年齢のぼくには、「語録」を読むと、その場面が浮かんできます。ぼくの似たような傾向のある人にはオススメです。)
重く、怖がらず、むしろ軽く、ふんわりするためにぜひこの映画で「かづゑさん」と出会ってきてほしい。かづゑさん、96歳、長島で元気だそうです。
(76歳、不自由な手でパソコンはじめ、84歳で本を出したって。まだまだだなあ、3・2くんは)
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