この新年初めの時期は、毎年、たくさんのアクセスがあります。もちろん、毎日更新する記事へのアクセスもありますが、かなりの数は「国語」教科書教材へのアクセスです。

特に「たぬきの糸車」シリーズ記事へのアクセスがスゴイ。

 

この「たぬきの糸車」シリーズは、教材研究と授業の実際を綴ったブログ記事です。

毎年、この時期にはまとめたデータのリクエストが来ます。昨日もありました。

ブログは13回(∔2回)にわたって書いたもの。それを一つにまとめた記事データの方が便利なはず。更に、まとめた時にいくらかの補足もしています。

 

ぼくは、この間、ZOOMでの学びのために、パワーポイント資料も作りました。

パワーポイントと併せて、「たぬきの糸車」シリーズを、新たにアップしてみます。

 

❶ ❷ ❸では、読む=タンテイすることの意味、教師の教材研究の大事さ、全文の音読はどのように、そして、書き出しの丁寧なタンテイです。

 

鉛筆  鉛筆  鉛筆  鉛筆  鉛筆

 

【パワーポイント】❶です

 

「たぬきの糸車」を読む① まずは全文を読む タンテイする読み

 光村図書の1年生「国語」教科書(下)の物語文「たぬきの糸車」を読むシリーズを始めます。まずは本文から。「書き出し」のタンテイです。

(*「タンテイ」というのはことばを手掛かりにイメージをつくること。ぼくは、こう呼び、子どもたちとわくわくする学びへと誘います。)

 

 たぬきの糸車

     きし なみ作 (むらかみ ゆたか絵)  
 

 むかし、ある山おくに、きこりのふうふがすんでいました。山おくの一けんやなので、まいばんのようにたぬきがやってきて、いたずらをしました。そこで、きこりはわなをしかけました。

   
 ある月のきれいなばんのこと、おかみさんは、糸車をまわして、糸をつむいでいました。
 キーカラカラ キーカラカラ 

 キークルクル キークルクル

  ふと気がつくと、やぶれしょうじのあなから、二つのくりくりした目玉が、こちらをのぞいていました。   

 糸車がキークルクルと回るにつれて、二つの目玉も、くるりくるりと回りました。そして、月の明るいしょうじに、糸車を回すまねをするたぬきのかげがうつりました。

 おかみさんは思わずふき出しそうになりましたが、だまって糸車を回していました。   

  

 それからというもの、たぬきは、まいばんまいばんやってきて、糸車を回すまねをくりかえしました。 

  「いたずらもんだが、かわいいな。」   
 
 あるばん、こやのうらで、キャーッというさけびごえがしました。おかみさんがこわごわいってみると、いつものたぬきがわなにかかっていました。

「かわいそうに。わなになんかかかるんじゃないよ。たぬきじるにされてしまうで。」

 おかみさんは、そういって、たぬきをにがしてやりました。  

 

 やがて、山の木のはがおちて、ふゆがやってきました。ゆきがふりはじめると、きこりのふうふは、村へ下りていきました。    

 

 春になって、また、きこりのふうふは、山おくのこやにもどってきました。 

  とをあけたとき、おかみさんはあっとおどろきました。  いたのまに、白い糸のたばが、山のようにつんであったのです。その上、ほこりだらけのはずの糸車には、まきかけた糸までかかっています。 

「はあて、ふしぎな。どうした こっちゃ。」

  おかみさんは、そう思いながら、土までごはんをたきはじめました。すると、  

 キーカラカラ キーカラカラ 

 キークルクル キークルクル   

と、糸車の回る音が、聞こえてきました。びっくりしてふりむくと、いたどのかげからちゃいろのしっぽがちらりと見えました。

 

 そっとのぞくと、いつかのたぬきが、じょうずな手つきで、糸をつむいでいるのでした。たぬきはつむぎおわると、こんどは、いつもおかみさんがしていたとおりに、たばねてわきにつみかさねました。

  

 たぬきは、ふいに、おかみさんがのぞいているのに気がつきました。たぬきはぴょこんと外にとび下りました。そしてうれしくてたまらないというように、ぴょんぴょこおどりながら帰っていきましたとさ。


 

まず1回目はぼくが音読します。ゆっくりと。ぼくがこのお話を十分に楽しんでいることが伝わるようにと思いながら読みます。

途中、音読の苦手な子の脇に行き、そこに座り、読んでいるところを指さしながら読みます。

不安な表情が安心に変わります。


子どもたちはしっとりした雰囲気の中で教科書に目を落としています。集中した教室空間が現出します。

音読のなかでイメージする気持ち良さ、集中する中で聴く心地よさが広がったように思います。3学期にもなれば、教室には*<聴きあう関係>ができています。(*このことをクラスづくりの基本にします)

最初の読みを心地よく聴く体験が、これからの長い時間の授業を支える根底にあるからこそ学びが豊かになるのです。

 

2回目は、ぼくの音読を追いかける連れ読み。3回目はそれぞれのペースでひとり読みです。

 

【パワーポイント】❷

ここで、教師としての教材研究の意味を考えます。書き出しのタンテイ(読み)によって、イメージを作っていきます。

教材研究は、指導書や赤本と呼ばれるものに任せ、自分では読まないという傾向が強まっています。

確かに時間がなく、やることも多く、かつ学年みんな同じように進めることが強いられているゆえに起きていることでしょう。しかし、目の前の子どもたちと学びをつくる際に、教師自身の読みなくして、”主体的・対話的な深い学び”などただの絵に描いた餅にしかなりません。

未熟でも、自由でオリジナルな授業を目指しましょう。志は高くもって。その手伝い記事です。

 

「たぬきの糸車」を読む② 書き出しを読む(1)

 

 つまっている「情報」を読みとく
   ~書き出しをタンテイする

<本文より>
 むかし、ある山おくに、きこりのふうふが住んでいました。山おくの一けんやなので、まいばんのようにたぬきがやってきて、いたずらをしました。そこで、きこりはわなをしかけました。

書き出しのところです。
たったこれだけの文章だけれど、この話を読みといていくために必要な「情報」がたくさん詰まっています。
面白さを感じ、読みとく力を育てるには、この「情報」をていねいにみんなで読みあいます。共同の学びをつくっていきます。別のことばで言えば、<タンテイ>です。

≪読みとく「情報」≫授業をする際に、ここはまず教師である自分の分析<タンテイ>です。
この書き出しだけで、9点あげます。
①「むかし」
②「ある山おくに」
③「一けんや」
④「きこり」
⑤「ふうふ」
⑥「山おくの一けんやなので」
⑦「まいばんのように」
⑧「やってきて」
⑨「そこで、きこりはわなをしかけました」


書き出しの部分のタンテイです。
①むかし・・・これは昔話の定型です。
「ももたろう」でも「うらしまたろう」でも「おむすびころりん」でも「かにむかし」でも、すべてこの語り口で始まります。
「むかしって、いつ時代?平安時代?室町時代?」とか「何年前ですか?」などという理屈の世界ではありません。
「むかし」といえば「むかし」「むかし むかし」のことです。その一言で、その時点に聴き手をお話の世界に連れて行くのです。昔語りの定番です。
「ムカ~シ」と音読することで、その世界に入りやすい場合もあります。

②ある山おくに・・・これもまた昔話の語りの定型。それはどこかと特定する必要もなく物語の世界に引き込んでいくのです。

【パワーポイント】❸

山を連ねた図を黒板に描きます。(プロジェクターでもいいかな)
山おく」があるなら「山のふもと」も教えましょう。この「ふもと」に家々があり、そこに「きこりのふうふ」の本当の家もあるのです。
「村」=「人里」ということばも必要な知識です。

③一けんや・・・山おくの一けんや(軒家)です。二軒あれば二軒屋。ここは人里離れたところです。とてもさみしいところです。仕事をする間だけ住む簡素な家です。

④きこり・・・これも子どもたちにはつかみにくいことばでしょう。
「きこり」は木伐り(樵)です。つまり、山の中で木を伐(き)る人だということはわかっても、その木を一体何に使うのか、子どもたちには皆目見当がつかないかもいしれません。自分たちの周りに木伐りのような第一次産業に従事する人はほとんどいないのですから。
この仕事の意味はぼくの方で子どもたちがわかるように語ります。燃料としての木材建物に使う木材炭焼き用の木材などです。

木こりは木材を運ぶ仕事もあり、家を空けることもあります。おかみさんが一人留守番をしているのもそういう事情があるからでしょう。

(書き出しの⑤からは次回に)