以前取り上げた「リッツ・カールトンで学んだ仕事でいちばん大事なこと」 は、リッツ・カールトン大阪の元営業統括支配人による著書だったが、今度はザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社長による著書である。レイヤーが一つか二つ上である。
レイヤーの問題だけではなく、前者は「仕事の仕方」にフォーカスしたものなのに対して後者はリッツ・カールトンの企業としてのスタンスを詳解したものであることから、企業としてリッツ・カールトンが何を目指してどのような取り組みをしているのかが非常によく整理されていた。

リッツ・カールトンは「ノー」と言わないサービスを実践しているというのは有名な話だが、それには「ノー」と言わずに済むような企業としての仕組みづくりが最も重要であることを痛感した。
よくありがちなのが、「顧客第一」を標榜しながら、現場にばかり負荷を強いて、トップマネジメントが顧客を向いていないケースである。いくら「顧客第一」を連呼したところで、顧客を遇するための武器を持たされていない現場が、どれだけのことを出来るというのか。やはり、トップマネジメントが心の底から顧客を向かなければ、本当のサービスなどは実現できないのである。

さて、この本の最大の魅力は、なによりも「ミスティーク」(注:ミステイクではない)だろう。
「ミスティーク」とは何か。本の中では「神秘性」という言葉に置き換えられている。
具体的には、リッツ・カールトンではお客自身が気づいていないニーズを読み取り、それをサービスとして実現してしまうことを指しているようである。
たとえば、最も簡単な例で言うと、ドアマンが入り口でお客を迎えるとき、初めてのお客であっても「いらっしゃませ、○○様」と、お客の名前を添えて声をかけるということである。
「なんで分かったの?!」という不思議さがすなわちミスティークであるという。
他にも、ある意味過剰とも言えるようなサービスについて、たくさんのエピソードが盛り込まれている。

また、慧眼といえるのが、著者はリッツ・カールトンの有り様を「ホテル業界」ではなく、「ホスピタリティ業界」と規定しているところである。高級車、高級ブランド品などを販売する企業も「ホスピタリティ業界」、エステなども「ホスピタリティ業界」としているのである。
なんともユニークではあるが、たしかに指摘の通りであり、最近流行りのブルーオーシャン戦略 の理論から言えば、ブルーオーシャンを開拓するには必須の視点である。

とまぁ、非常に立派な内容の本であり読んでいて楽しいのだが、欲を言えば、「理屈は分かった。じゃあ、実践してくれ」というところか。
実際にリッツ・カールトン大阪に宿泊した際には、普通のホテルのサービスとの違いはあまり感じられなかったぞ、と。
こういう本を読むとこちらの期待値が上がってしまうので、どうしても現実が見劣りしちゃうんだなー。

(アメリカンな企業度:★★★★☆)

高野 登
リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間