面会当日。
その日は昼ご飯を食べる予定でした。
すっかり信じ込んでいる哀れな被害者を装うために、いつもの婚活モードで行きました。
そして待ち合わせ10分前には到着し相手へ連絡しました。

すると「グリーンのTシャツに青いズボン」という服装のヒントをもらい、無事に相手を見つけられました。
しかし自称医師の装いを目にした途端に、これはきっとお金目当てだなと思ってしまいました。

自称医師は何とも言えない茶系グリーン(まるで藻の蔓延る側溝のような色)のくたびれたTシャツ姿で、どこでそんな色のTシャツが売っていたのか非常に気になりました
そして手にはよれよれになった大き目の紙袋。
その紙袋以外の持ち物はありませんでした。

あれ、かばんは?持ち物どうした?
私に会うまでの間に強盗にでもあったのか、恵まれない方に寄付したのか。
こんなあからさまに自称医者に見えるやついる?
一周まわって多忙を極める医者だから、TPO?服装?なにそれおいしいのって設定なのか?

これはご飯目的で食い逃げされるかもなと思ってしまいました。
それくらい衝撃的な姿でした。
これまで面会したことのある方々の中で、断トツに清潔感を極限まで失った装いでした。
これらの第一印象から、この自称医者を藻さん(仮名)と呼ぶことにします。

さらに言うと、私はこの時点で自称医師の名前を知りませんでした。
プロフ名はM(仮名)とだけ表示されており、対面時の自己紹介でも「Mです」と言われましたので。
ちなみに私はあきこと下の名前だけ名乗っていました。

幸いなことに昼ご飯を予定していたお店は1000円台からリーズナブルなセットがあるお店で、私が提案したところでした。
万が一食い逃げされても払える金額のお店です。
とりあえず全てのツッコミどころをまるっと無視して、動揺を押し殺しつつ目的地へ向かいました。
詐欺師の実態を暴く使命を勝手に帯びている私には、目前のツッコミどころはどうでもよいことでした。

目的のレストランに入店後、終始なごやかな雰囲気でした。
初心者ぶって研修医制度について詳しく聞き、いろいろ説明してもらいました。
あからさまなボロが出ることはなく、内心「つまらん」と思いながら私の婚活歴で培ったスキルを遺憾なく発揮しました。

いよいよ運命のお会計。
伝票は藻さんが手に持って立ち上がりました。
面談時は常に細かいお金を持っている私は、自分の注文分ちょうどの金額を財布から出してお会計のトレーに置こうとしました。

すると「細かいのを持っていないので、まとめて払わせてください」と言われ、その場では一旦引っ込めることにしました。
謎の紙袋から財布が出てくるのかと怖いもの見たさで見守っていたところ、お会計は携帯で決済していました。
なるほど、電子決済であれば財布はいらないですよね。

藻さんがお店を出てきたところで私は自分の分の金額を渡そうとしました。
すると「大丈夫ですよ」と言われましたが、一歩間違えば住所不定無職のような風体の方に奢ってもらうわけにはいきません。
この場で突然急病人が出て「どなたかお医者様はいますか」と呼びかけられて、藻さんが出て行ったら「お間違いではないですか」と思われるレベルの自称医者にみえるのですよ。
申し訳ないから払うと固辞したところ、お札だけ受け取ってもらえました。
相手がもし詐欺師であれば、いい金づるになると思われたはずです。

帰りは駅まで送ってもらい、特に連絡先交換も言い出されず、相手の名前も最後まで教えてもらえなかったので「見切られたか、つまらん」と思っていました。
しかし帰宅後にアプリでLINE交換を提案され、次回もまた会いたいと言われました。
「とことん付き合ってやろうじゃないか、詐欺師とわかれば警察に突っ込んでやる」と思い、LINEを交換。
そこであっけなく相手のフルネームがわかりました。

食事中の会話から藻さんはご自身の出身地にある大学を出たことがわかったので、「出身地名、男性の名前、医学部」で検索しました。
すると学生時代の男性の画像が引っ掛かった上、某大学の医学部サークルの名簿に名前も載っていました。

さらに現在働いている病院がある地域も会話の中でなんとなく絞れていたので、「地名、男性の名前、研修医」で調べてみました。
ここでもある病院の研修医名簿に男性が載っているのを見つけました。
 
正真正銘の医師でした。
散々ボロクソに言っておいて、自称医者と決めつけて本当に申し訳なかったです。

ようやくこの医師が私に近づいた理由が絞り込まれたわけです。
①自称医者の詐欺師で金づる募集中
②本物の医者で、本命の彼女または妻がいて遊び相手を探している
③本当に医者だが、宗教の勧誘などの爆弾を抱えている

一応ありえない可能性の②も復活させておきました。
また会いたいとか言っていただいておりますが、私に会う暇があればしっかり勉強してくれ。