相談所の男性とホテルでお見合いをしてきました。
世間一般受けするような整った容姿の大手商社勤務の男性で、なぜ私なんぞに申し込んできたのか疑問でした。
しかしその疑問はお見合い開始早々に解けることになりました。

男性は挨拶もそこそこに演説を始めました。

「僕、今までたくさんの女性とお見合いしてきました」

うん、まあそうやろうね。
イケメン×大手商社勤務×アラサーはとんでもなくモテるやろうね。

「今までモデルとかCAとか、そういう女性ばかりとお見合いしていたんです」

ほうほう。
バチェラーばりに美女たちばかりとお見合いしていたと。
それでなぜ突然こんな平たい顔族の地味顔と会おうと思った?

「でもほとんどが専業主婦希望で、本当に『見た目だけ』の女性だったんですよ。
 話も合わないし、気位ばかり高くて可愛げもない」

美女は男性からもてなされる人生を送ってきただろうから仕方ないのでは。

「それでちょっと条件を下げてみることにしたんです」

うん。
美女と比べたら、そりゃ私のような平凡顔は条件下がりまくってるだろうね。
でもそれを面と向かって言うのはどうなん?
ちなみに私の好みはキアヌ・リーヴス様やで。
あのお方と比較したら、大多数の人類はあんたも含めて顔面偏差値下やからな。

私はやけくそで笑顔を振りまくしかありませんでした。
だってやべえヤツじゃないですか。
こんな人間性を疑う発言を平気で初対面の人にできるんですよ。
むしろ美女たちも、それを察知して避けたのでは。

お見合いは基本的に男性のお話に感嘆する振りで乗り切りました。
お会計の際に不覚にも小銭が足りず、私は1300円の紅茶を頼んだので、とりあえず1500円をトレーに置いてみました。
男性は無言で私の1500円をご自分の財布にしまい、カード払いをしていました。
おつりはもらえなかったです。
200円くらいでもめたくないですし、ツッコまないことにしました。

そして一緒に駅へ向かう道中で、男性はさらに驚くことを言ってくれました。

「いやあ、今日は条件下げて会ってみてよかったです。
 いのかわさんは美人じゃないですが、品があって可愛らしいですね。
 お見合い中ずっと思ってたんですが、もしかして良いところのお嬢さんですか」

あのな、それは褒めてるつもりなんかもしれんが、全然嬉しないで。
もうあんたの好感度は蠅とどっこいどっこいやで。
つまり鬱陶しいから早く解散してくれ。

ひとまず庶民階級の出であると誤解を解いておきました。
すると男性は重ねてまたまたすごいことを言い出したのです。

「そうですかね?
 でも今日いのかわさんのおかげで僕は確信しました。
 結婚するなら育ちの悪い美人より育ちの良いブスがいいって!」

おいおい!
とうとう殺傷能力の高いワードを言うたな!
私の顔面への評価については、年齢や性別、国によって二極化するって自覚してるねん。
だから自分の中で平均化して普通顔ってことにしてるねん!
あんたの言う「育ちの良いブス」は、お年寄りと女性と顔濃い族にはめっちゃモテるんやからな!

さすがの私も笑顔の無表情を固定することができず、パワーワードにぎょっとしてしまいました。
それで男性は自分の失言に気づいたようで、よくわからない訂正を始めました。

「いえ、いのかわさんはブスではないですよ!
 美人の反対語がブスだったので、言葉の綾でそう言っただけで!
 いのかわさんは普通に可愛らしい人だと思ってますから!
 そもそも本当にブスなら僕は絶対に申し込んでないですよ!」

うん、もう何でもいいし、どうでもいい。
平気で失礼な用語を何度も言えるような人間性の疑われる人物が、私の容姿に対して主観的にどんな評価を下そうとも、その感性自体が信用できないんで。
むしろ申し込まれない方が幸せだったわ。

そういうわけでお別れするや否や、即お断りを出しました。
条件を下げてまで無理に私に会っていただくのは申し訳ないですし
性格も含めたスペックが大事だと改めて思った話でした。