相談所で仮交際した男性の話です。

お見合いでは、物腰柔らかで優しい印象の男性で、

私は仮交際を希望し、無事に成立しました。


そして仮交際成立した週末に直接会うことに。

お互い甘いものが好きだったので、おやつどきにケーキが有名なカフェで会う約束をしました。


面談当日。

無事に集合しカフェへ向かいました。

比較的すぐにお店に入ることができ、面談スタート。

しかし序盤で問題が発生します。

男性がチョコレートケーキか、キャラメルと洋ナシのタルトで迷う中、

私はフルーツタルトに心を決めました。

男性は5分程度の長考の末、「チョコレートケーキにします」と述べました。

そこで店員さんを呼び、男性が注文を伝え終えたのを見計らい、私はフルーツタルトを注文しました。

すると男性は「えっ!」とそこそこ大きな声で言いました。

私も店員さんも驚き、男性の顔を見つめます。


「あの、どうされましたか?」

「あ、すみません。何でもないです。以上でお願いします」


そして店員さんが去っていった後、疑問符だらけの私に男性はとんでもないことを言い出しました。


「なぜフルーツタルトなんですか」


質問の意図が全くわからず私は

「食べたかったからです」

と当たり前すぎる回答をしました。


「いや、そうじゃなくて、なぜ僕が食べたがっていたもう一つの方を頼まないんですか」


私の思考は宇宙空間に放り出されました。

数々の銀河系の彼方に、私の大好きなスターウォーズの世界があるかもしれない、そんなことを考えていました。


「すみません、質問の意味が理解できません」


スターウォーズに出てくるドロイドたちってAI内臓してるのかなと考えていたためか、Siriみたいな回答を繰り出しました。


「さっき注文する前に僕が2つのケーキで悩んでいたじゃないですか。

そのときあきこさんは『どちらもおいしそうで悩みますよね』って言いましたよね。

だから僕が悩んでいる2つのケーキのうち、

僕が頼まなかった方を注文してくれると思っていました」


いやだって、あんたが『悩んでしまってすみません』って言うたから、

そのフォローで共感してみただけやで。

確かにどっちもおいしそうではあるが、

私が頼みたいとは一言も言ってないやん。


「そんな算段だったとは知りませんでした」

「ダメじゃないですか!母ならそうしてくれますよ!」


母ならそうしてくれるだって?

わしはテメーのママじゃねえ!

そんなにママがいいなら、一生ママと仲良く二人で暮らせばよくねえか。

結婚相談所に登録せずにさ。


宇宙から大気圏へ突入し地球上へ帰ってきた思考は、

この男性への自己中心的な言動によって業火に包まれていました。

謎のクレームをつけられている間にケーキは手元に届いてしまっており、

今更キャンセルすることはできません。

こうなったら一刻も早く全て片付けて、退席するのみです。


「素敵なお母さまのようで×さんは幸せですね。

 じゃあ、楽しみにしていたケーキを食べてしまいましょう!」

と号令をかけつつ、私は早食い競争と言わんばかりにケーキを食べ始めました。

一方の男性は私が彼の大事な母上を褒めたことで気をよくしたようで、

自分の母親が如何に素晴らしい女性かを話し出しました。

なるべく聞き流しつつ、隣の席も初面談っぽかったので、

そちらを観察していました。


不本意ながら聞き取れた母親自慢エピソード。

 

・食事に入っていた自分の嫌いなものを全て食べてくれ、自分の好物は全部自分に譲ってくれる

・季節の節目ごとに親子二人で国内旅行する

・記念日は必ず一緒にホテル等の特別な所で食事をする

・婚活に関するアドバイスもいろいろしてくれる

等々

 

男性は全米が胸やけを起こす愛溢れる母親話を永遠に披露してくれました。

お陰様でケーキを完食することにしか興味のなかった私も、

見事に胸やけを起こしてしまいました。

当たり前ですが、男性がケーキを半分も食べ終わらないうちに私は見事に完食しました。

さすがの男性も私が完食したことに気づき、

「あきこさんはお母さんと仲がいいですか?」と聞いてきました。


おいおい、母親縛りから抜け出せよ。

そしてふと。

そうだ!私も架空のマザコン話をしてやろう!と思いました。

昔ドラマでやっていた「過保護のカホコ」を参考に私も共依存親子になりきる!


「そうですね。

 私も季節ごとの旅行や記念日の過ごし方は×さんと同じです。

 うちもすごく仲良しで、年に3回は海外旅行に行くって決めてるんです。

 毎日電話で1時間は話すし、仕事やデートに着ていく服も見繕ってもらいます。

 今回みたいに相談所で会う男性は、事前に母に確認してもらってGOサインが出た人としか会いません。

 あとは…他にもいろいろありますね」


早々にネタ切れを起こし、自分からギブアップしました。

私としたことが出てこない。

今こそイマジネーションを解き放つときだったのに!

不甲斐ない。

自分の想像力の限界を無念に思う私に、

男性は再びとんでもないことを言ってくれました。


「あ、よかった。終わったんですね。

 いや、正直引きました」


はい?何やて?引いたって言うた?

どの口が言うねん?

身近なマザコンがいないばかりに架空の話を作り上げるため、あんたが話したことほぼコピーして、ちょっとアレンジしただけやで?


「えーそうですか?×さんの話とほぼ一緒ですよ☆」

「いえ、全然違います!」


光の速度で否定するやん。

『お前が言うな』を体現した人を、教科書で載せる機会があれば、

ぜひこいつを差し出したい。

しかし女性に母親と同じ言動を求めるとは。


私もきっとお腹を痛めて生んだ子になら無償の愛を捧げられると思います。

あと大切なパートナーができれば、

その人にも無償の愛を捧げられるのかもしれません。

でもテメーは私にとって何者でもないよ。

というわけで、各々で会計し解散後は無事に交際終了を申し出ました。


一つ謎が残るのですが、男性が悩んでいたケーキを注文した場合は奢ってくれていたのでしょうか。

それとも半分こするから、やっぱり割り勘だったのでしょうか。

以上、恐怖マザコン妖怪でした。