三木句会ゆかりの仲間たちの会:『食の一句 365日
入門シリーズその1』櫂未知子より
6月11日 鯛入れて他はとりいだす冷蔵庫 水原秋櫻子
〈冷蔵庫〉が「三種の神器」の一つと言われ始めた頃の句。今の
ような大型冷蔵庫はまだ家庭には普及しておらず、したがってこの
ような光景はよく見られたのだろう。私も一度、大きな鯛を頂いた
ことがある。箱に入っていた時には気付かなかったが、冷蔵庫へ
、、、という時、初めてその鯛の大きさに感じ入った。現代では
何でもかんでも冷蔵庫へ入れるので、たまさか生鮮食品をたっぷり
頂くと往生してしまう。かくして、この句の詠まれた時代と同じ
喜劇が繰り返されるのである。 (『玄魚』)季語=冷蔵庫(夏)
遊子のおまけ:災害時用に備蓄食料品を一定量は持っておきましょう、
と言われ、缶詰、レトルト食品、次いで冷凍品を準備する。古めの冷蔵庫
の冷凍スペースはさほど広くはなく、冷凍庫は常にいっぱい。奥の方に
押し込まれた塊は、何であったかさえも忘れてしまっている。いつも
心配するのは、停電が長引いた時のことだ。
7月27日 それらしき匂してをり鰻の日 桂 信子
土用丑の日に比べ、〈鰻の日〉は案外耳にしないように思う。しかし、
聞けばすぐにわかる。はたして、他の魚で「⚪︎⚪︎の日」と言われてピン
と来る日はあるのだろうか。鰻はあの匂いがとにかく抗し難い。店では
「これでもか」というように、往来に匂いを撒き散らす。作者は大阪
在住、最新句集には〈鰻の日〉の句が他にもある。〈いつの間に変りし
店や鰻の日〉〈鰻の日近しと夕べ肘まくら〉。読んでいるうちに関西
の鰻を食べてみたくなった。 (『草影』)季語=鰻の日(夏)
遊子のおまけ:鰻重をご馳走してくれる、と言えば、万難排してもゆく。
それほど、鰻の蒲焼は我ら日本人には抗い難い料理の一つになっている。
イギリスの海辺の町で鰻の燻製がメニューにあったので珍しさもあって
注文してみたが、皮も身もとても硬くて食べられるものではなかった。
その代わり、その店で燻製にしている鮭はふんわりして実に美味であった。
得手不得手があるのだろう。
photo: y. asuka
おとうとをトマト畑に忘れきし ふけとしこ
