三木句会ゆかりの仲間たちの会:『食の一句』櫂 未知子著より10.11月 | sanmokukukai2020のブログ

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         三木句会ゆかりの仲間たちの会:『食の一句』櫂 未知子著より

 

         10月27日

   

             干し柿の粉をふく秋の土用かな   田口春草

 

         土用は各季ちゃんとあり、<秋の土用>は立冬までの十八日間

        をいう。夏の土用といえば鰻をすぐに思い浮かべるのに対し、

        この句の<干し柿>は懐かしく美しい。干してある柿が白い粉を

        噴き、甘味をさらに増すようになると、冬はもう近くまで来ている

        という思いが強くなる。私の育った北海道では柿の木そのものが

        あまり育たないから、本州でたわわな柿や干してある柿を見た時、

        「あ、『日本むかし話』だ!」と大いに感動したものである。

                      (『青嵐』)季語=秋土用(秋)

 

 

        遊子のおまけ:なんでも言葉を縮めてしまうのは日本人の特技だ

       と思っているが、「#ラスメシ」なる言葉に出会った。昔風に言う

       ”いまわのきわに食べたいもの”は、落語では「そば清」があり、

       江戸時代の粋な蕎麦の食べ方として、塩辛いつゆに蕎麦をほんの少し

       つけて勢いよく音を立ててすする、というのがあり、死を前にして

       ある男は、本当はつゆをたっぷりつけて食べたかったという本音を

       明かした、という痩せ我慢を嗤ったもの。

        筆者のラスメシは「干し柿」。たっぷり大ぶりで外側は少し硬く

       なり、中はまだ柔らかい、というのが理想的。いつの頃からか、

       干し柿は桐箱に鎮座し、高級贈答品の座を獲得してしまった。

 

 

 

        11月3日   

 

            蛸焼を返す手捌き文化祭    泉田秋硯

 

        文化祭が必ずしも文化の日に行われるわけではないが、やはり

       十一月三日関連だとみたほうがこの句は面白い。上五・中七までは

       「あ、プロの手さばきを詠んだ句なのかしら」と思うが、<文化祭>

       と締め括ったことで、素人が懸命に焼いている雰囲気になった。季語

       の妙味である。タコーーそして文化。よく考えてみると、文化住宅・

       文化包丁・文化鍋などなど、ブンカのつくものはどことなく怪しい

       ものが多い。となると、蛸焼はぴったりか。

                  (『鳥への進化』)季語=文化祭(秋)

 

 

        遊子のおまけ:最後の段は、蛸焼はどことなく怪しい、と読めて

       しまう。まあ、B級グルメにも入れてもらえない、関西発の間食といった

       ところか。が、とんでもない!タコは今や高級食材に成り上がった。

       国内の不漁、アメリカでのヒスパニヤ系の人々が常食するようになった、

       円安で買い負ける、などが理由らしい。最近、築地場外に買い物に

       出かけたおり、タコの足元に置かれた値段表にびっくり。ざく切り

       にしてビールのつまみに、などと言っていられない。70年代の

       アメリカでは、ニューヨークでさえもsashimi/sushiは、なまで魚を~~?

       と眉を顰められ、日本人同士でひっそりと小さな寿司店に行った

       ものだ。ひとの価値観は容易く変わるらしい。

 

 

 

 

 

              

                                        photo: y. asuka

                                       鮨圧すや折れむばかりに母は老ゆ            山田みづえ