三木句会ゆかりの仲間たちの会:有馬英子第一句集『深海魚』より
熱帯夜なんで手がある足がある
坂多き街にとまどう晩夏光
邯鄲に応える術のなかりけり
足下はさめきっている鶏頭花
秋の日に一礼したり影法師
うたかたを木匙ですくう霧の夜
秋の夜や抱き人形は海の底
立冬の空に広げる白い地図
東京に表ばかりの落葉かな
ぬかりなく笑顔を返す室の花
小春日をひとり占めするノラの猫
短日の檻から猿の手が伸びる
無抵抗主義を貫く冬の蝿
目も鼻もとうに失せたり福笑い
師の背に父を重ねる寒茜
寒中を突き抜けるまで掘り進む
雪雲や聞き耳立てる風見鶏
山眠るいくつ越えても眠る山
赤と黒リバーシブルに冬を着る
梟の片眼で闇に挑みけり
photo: y. asuka
ポケットに乾く望郷つくしんぼ 田中朋子