瞬泡さんの添削と推奨句のコーナーですが、この寒波でお風邪を召されダウンとのこと。
そこで、昨年秋に出版されたNHK学園第32集合同句集『くにたち』に掲載された瞬泡さ
んの作品をご紹介することにいたします。総勢37名の俳人が参加されています。
NHK学園俳句講座専任講師・小島 健氏のあとがきの冒頭「この一集には各作家の来し方
や、人生の深い思いが凝縮されています。また、年齢を経ても知的好奇心と精神的な若さ
は失われず、創作の喜びが体現されています。ここに、大きな拍手!」と記されています。
関根瞬泡(埼玉県)『武蔵野』
私はNHK学園の「俳句友の会」に約10年の長きにわたってお世話になり、その間に諸先
生方からご指導と沢山の選をいただきました。この句集ではその中から抽出した句を主体
として、それに自選の句を加えたものを並べました。
題名については、私自身武蔵野大地の子であり、その恩恵を受けて育ったこともあって
「武蔵野」とつけさせていただきました。
今生の今をわが世とくつわむし 群青の海よりきたり桜鯛
大文字消えてこの世に戻りけり 朝顔の一期一会のあしたかな
こんな日は武蔵野恋し秋時雨 盆踊あの世この世がすれ違ふ
われもまた関東育ち空っ風 揺るるたび数が増ゆるや紅牡丹
茶の花を語る人声やはらかし 嵯峨菊のにほひたふとし大覚寺
漱石の菫残して草千里 さびしさのここに集へり水中花
菜の花に日暮るることはなかりけり 来し方を振り返るとき亀鳴けり
滝の上に滝重なりて凍てにけり 身に入むや湯治の宿の夕あかり
本尊は弥勒菩薩や紫木蓮 あしあとがどこかさびしい浜千鳥
吹く前に麦笛すでに鳴ってゐる 秋蝶のひとさし舞ひてをさめけり
やはらかきひとのこゑして花卯木 観音の眉根深くて秋夕焼
末枯やどぶ川に浮く泡ひとつ 風になり波になりたる浮寝鳥
埋もれゐる人をちこちに葛の花 一杯のコーヒーにある秋思かな
ためらひもこだはりもなく桜散る
photo: y. asuka
団扇持て我に吹き送れ不二の風 正岡子規