わたしの選んだ特選句 | sanmokukukai2020のブログ

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   わたしの選んだ特選句

 

   名月をとりかこんだり米、中、露    関根瞬泡

                              選んだ人:國分三徳

 

    ウクライナの戦争における米国、中国、ロシアの拘わり、確執、思惑を背景に出来上

   がった句と思う。いわゆる時事句となる。時事句は俳句の雰囲気に余りそぐわない気がし

   て、私はどちらかというと好きではない。しかし、揚句にはそんなに時事臭さを感じな

   かったので特選とした。表現が簡単でありながら色々なことを含んでいる。あからさまな

   立場を強調しないで、名月と米中露だけで句が出来ている。

    名月をゆったりと愛でていれば米中露の平和の意思統一ができるのではないかと、世界

   のみんなが望んでいる、そうなって欲しい。そんな気持を一句にしたかったのではないか

   と思う。

    「名月や」と切れ字を使わなかったところは、ひょっとして「名月」は「ウクライナ」

   であり、名月のような何の罪もないウクライナに手出しをしないで、ウクライナをみんな

   で愛でて平和を祈りたい、そんな風にも読みとれる。

    そして、これは瞬泡さんの考え方次第ですが「米、中、露」は「米中露」でもいいので

   はないでしょうか。

 

    次に、ゆきえさんの次の句について。

   真っ先にべったら漬けを友に買ふ   白樫ゆきえ

 

    べったら漬けという珍しい言葉をもってこられた。白俳句会の主宰だった故有冨光英先

   生の句に、

   足音のべったら市にそろひたり    有冨光英    (昭和61年作)

   があります。光英主宰が自ら解釈しておられる一文を引用します。

   「二十日えびすの前日、十月十九日の夜、東京の大伝馬町通りでえびす大黒や雑器を売る

   市が立つ。そこで麹のべったりついた浅漬け大根を売る。買った人たちが、べったらべっ

   たらと言いながら雑踏の中を歩いたところからこの名がついたという」

    ゆきえさんがこの珍しい言葉を使われた勇気に敬意を表します。尚、「友」はない方が

   いいと私は思いますが、いかがでしょうか。

   真っ先にべったら漬けを買ひにけり   白樫ゆきえ

   「真っ先に」という言葉に、ゆきえさんの色々の強い気持ちが雄弁に表されていると思い

   ます。

 

 

   さかあがりぐるりと回る秋の空    関本朗子

                              選んだ人:佐藤花子

 

    くるりではなく、ぐるりと回ったのですね。力強さを感じます。ゆっくり空も回る、広

   がりも感じさせます。空は宇宙でしょうか。私の子供の頃の情景が浮かびました。さかあ

   がりの途中落下して脳天を打ちました。小学3年生の秋の校庭、痛みと共に空が青かった

   ことを、何故かよく覚えています。

    さかあがりの一齣が、こんなにも爽やかな心を捉える句になるのですね。とても素敵な

   句だと思いました。

 

 

   古刹にも庫裏に暮らしの茸汁     田中 梓

                              選んだ人:さとう桐子

 

     一見近寄りがたい歴史ある寺院にも、住む人がいて暮らしがある。普段あまり意識する

   ことのない内側の、日常の光景が「茸汁」で一気に立ち上ってきます。

    黒光りする庫裡に立ち込める湯気と匂い。沸々と煮えたぎる茸汁は、厳しい冬を前に修

   行僧達の身も心も温めたことでしょう。

     古刹と関わりのある作者ならではの視点。穏やかな情感とリズミカルな言葉の運びに惹か

   れ、選びました。

 

 

 

                              photo: y. asuka

                  筒鳥ポポポポ馬の足跡森出づる   村越化石