有馬英子の俳句 | sanmokukukai2020のブログ

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   有馬英子 第一句集『深海魚』から

   

   寒木瓜のとにかく話しかけてくる

 

   花冷えの柵乗り越えて女来る

 

   HARU食べるアルファベットのビスケット

 

   夕月の一糸まとわぬ青葉冷え

 

   六月の穴埋め戻すひとりかな

 

   夏の蝶薔薇曼荼羅に迷い込む

 

   薔薇園の女同士のほめ言葉

 

   蝉時雨人それぞれに押し黙る

 

   八月の胸に短刀隠し持つ

 

   引き算の手持ちなくなる夜長かな

 

 

                                                                        『独行楽』   加藤唐九郎

                            『近代藝術家乃書』より

 

   野人の書

 

    加藤唐九郎は、近代陶芸の正当なる異端児である。

    瀬戸の陶工の家に生まれ『陶器大辞典』を独力で刊行する博識と、優れた技術によって、

   数寄者たちを魅了する名品を生み出し、多くの逸話を残した。

   「土は生きている。生きているから、土に個性がある」という言葉の通り、権威や常識に

   屈しない、傍若無人ともいえる野人ぶりを発揮したのである。

    三十五年ほど前、唐九郎を囲む数名の集まりがあり、気に入らない作品を自ら壊す唐九

   郎がテレビで放映された。皆がそれを芸術家のあるべき姿だと賞賛するなかで、私は「テ

   レビカメラの前で割る必要はないでしょう。パフォーマンスだ」と批判を浴びせたのであ

   る。座は一瞬静まり、唐九郎の顔は一変し、私はその場から連れ出された。

    それから数ヶ月後、唐九郎から紫志野茶碗が届けられた。私は批判を真正面から受け止

   める芸術家のあるべき姿を見た気がした。

    この墨書におろされた筆は、途中で墨継ぎすることなく、一気呵成に最後の一画まで筆

   を走らせている。革新の精神をバックボーンに、激しく豪放を貫いた唐九郎の「独行楽」

   である。

                           梶川芳友 『近代藝術家乃書』より