わたしの選んだ特選句
ととのはぬ二階囃子も世の中も さとう桐子
選んだ人:山崎哲男
微風も無い蒸し暑さの中、汗が滲む四条通りの大勢の人混みをかき分けて進む山鉾巡行。
この巡行になくてはならないのが、祇園囃子。その晴れ舞台でお囃子の担当者らが満足で
きる演奏をするには、ただ稽古あるのみ。しかし、その稽古の段階で既に不調和な有様に
は、先が思いやられる。
その原因は、どこにあるのか。おそらく、お囃子の担当者らにあるのではなく、異常気
象、コロナ禍あるいは熱中症の懸念、世の中の不調和な在り方が背景にあるのではないか
と、作者は言いたいのでしょうか。
ウクライナvsロシア、民主主義vs独裁主義、持てる者vs持たざる者、男と女などの2項
対立の様相にも、今はその中間にいろいろな層があり、複雑に入り組んでいる。そんな世
の中、1つの方向に一糸乱れず進むことの難しさを作者は嘆息しているのではないでしょ
うか。
走り梅雨胸に冷たき聴診器 関本朗子
選んだ人:白樫ゆきえ
胸にあてられた聴診器の一瞬冷やっとした感覚は、梅雨の湿った空気と肌寒さに加え、私
は不安感も感じました。
夏野ゆく原風景を拾ひつつ さとう桐子
選んだ人:飛鳥遊子
原風景を詠んだ句は数多あれど、原風景という抽象的な単語をそのまま使って印象に残る
句は、記憶の中にありません。少女のころ、一人で夏野を歩いたときにこころを過った思
い、また、誰かと歩を進めていた時に交わした言葉などが蘇ってきたのでしょうか。「原
風景を拾ふ」と表現したところに詩が生まれました。頭で詠んだのでなく、こころで詠ん
だ句には訴求力があり、手垢にまみれていない叙情が感じられます。
photo: y. asuka
理由なき反抗獅子座流星群 秦 夕美