わたしの選んだ特選句
身の澱を流す卯の花くだしかな 太田酔子
選んだひと:田中 梓
長い年月を生きぬいて、初めて「身の澱」に気づくのではないでしょうか。濃緑の葉に
純白の卯の花との清冽な対比、「卯の花くだし」は梅雨の長雨。雨の勢いで花を散らすよ
うに澱をも流してしまう、という。潔さがこの季語の使い方に読み取れて、迷うことのな
い特選句でした。
開演を告げる調弦紅い薔薇 樹 水流
選んだひと:原宿美都子
真紅のビロードの椅子が華麗なコンサートホールに座り、わくわく待っていると、いよ
いよ舞台に楽団員たちが集まってきて、コンサートマスターを中心に、それぞれ調弦しは
じめる。指揮者登場まえ、期待がふくらむ一瞬の響きが鮮やかに聞こえます。
風鈴の告白風の聞き上手 飛鳥遊子
選んだひと : 藤井 素
「なんて優しい句…」が第一印象でした。風鈴と風はそんな関係であったのか…。理屈なく、
ぐいぐいと引き込まれた句でした。
奇しくも、同じ作者の「生と死をつなぐ土偶の目の涼し」と、どちらにしようかと迷った
のですが、静かな優しい気持ちにさせてくださったこの句を戴きました。
photo: y. asuka
天上に火をつけにゆく蝸牛 あざ蓉子