わたしの選んだ特選句
おぼろ夜に銀河鉄道夢にみて 小泉真樹
選んだひと:幸野穂高
かつて息子と渋谷の映画館に『銀河鉄道』を観た時のことを思い出しました。
『銀河鉄道』の世界がこんなに広くあることにすごく感銘したことをよく詠まれて
おり、私も最近よく夢にみており、まさに自分のことを詠まれたのではないかと思
います。「おぼろ夜」と「夢にみて」と、夜が重なっておりますが良しとしました。
ぶらんこを漕ぎながら聞く内緒事 樹 水流
選んだひと:國分三德
ぶらんこという言わば遊具に内緒話をもってきた取合わせが面白い。ぶらんこと
いう形の見える景色の中で、仲の良い友人と内緒話をして悦に入ってる情景がはっ
きりと浮かんでくる。単純ながら意外な場面設定で判り易い。
あれもこれもと色々のことを、五・七・五の十七音に盛り込もうと欲張ると失敗
する。掲句のぶらんこと内緒事、そしてその意外性、それが成功をもたらしたと思
います。
静脈の浮ひておぼろな鄙の湯に 田中 梓
選んだひと:佐藤花子
『鄙の湯。秘湯と言われる秋田の乳頭温泉郷だろうか。まだ雪が残る露天風呂に
ひとり。乳白色の湯に静脈の青が艶やかだ。最初に私はそんな景を想像しました。
「静脈の」で鄙の湯は白い温泉だとイメージし、青と白の色彩と「おぼろな」が
耽美な世界を彷彿させました。そして次に静脈が浮く手に思いを巡らしました。初
老の女性。若い頃は白魚と言われた手も今は老いてしまった。苦楽を共にした手を
しみじみと眺め、労いの気持ちを込めて湯に浸す。その人の来し方まで見えるよう
です。
私はこの句から温もりと哀惜、矜持を感じ、特選句としました。
©️ben shahn
どうして わすれられようか
畑は おぼえている。
波も うちよせて おぼえている。
ひとびとも わすれやしない。
arthur binard