わたしの選んだ特選句
タンポポに不戦託せし人ありて 大塚楓子
選んだ人:草野きょう子
いつも、スーッと伝わって来る句や、何となく好きでいい句だなあと思う句、そ
んな気楽な感じで特選句を決めさせていただいています。
日が長くなりはじめた春の明るい道端のどこにでも見かける花でありながら、綿
毛を空に舞い上げて種子をどこへでも運んで行くタンポポ。タンポポという響きも
可愛いですね。そんなタンポポのイメージを「託す」という言葉を用いて「不戦」
と結び、強いメッセージにしているこの句をすぐ特選に決めました。
この句の不戦への思いは、有馬英子さんの句、<銃口にタンポポ一輪挿しておけ
>と共鳴しているのが伝わるだけでなく、「人ありて」という言葉が英子さんへの
あたたかい敬愛の表現であるのにも気づかされます。とても多くの思いが籠められ
た句だと思いました。
ひっそりと通夜から帰る梅匂う 神宮前小梅
選んだ人:小泉真樹
ご縁があって句会のお仲間に入れていただき数ヶ月が経ちます。作句は毎月やっ
との思いで宿題を出しているような状態ですし、選句も毎回頭を悩ませながら何と
かやっております。わからない初心者なりに試行錯誤しておりますが、作っていて
も選んでいても、どうも香りの記憶というものに好ましさを感じる自分に気づきま
した。
まずは、ふとした瞬間の香りから蘇る記憶や出来事というものを小梅さんの句か
ら感じました。お通夜の帰りという寂しい状況で、それを癒すかのような梅の香り。
ただこの梅の香りは癒しの香りでもあり、又良い香りであればあるだけ悲しみをよ
り感じてしまう香りでもあったのではないかと思いました。映画の中の悲しい場面
でも、悲しい曲ではなく場違いなくらいに美しいメロディーが流れ、そこに悲しみ
を感じることが多くあります。なんだかそんな映画の一場面を見ているような感覚
が素敵だなと思い、特選句に選ばせていただきました。
ICU目を醒ましけり春の蝿 佐藤花子
選んだ人:樹 水流
回復を待つ無味無臭な家族待合室。どのくらい時間が過ぎたろうか、目覚めたと
の知らせが入り、なんとなくほっとしたした時に目に入った蝿の飛行。病院の待合
室に蝿が飛ぶなんてあるかしら?と思いつつも、気持ちの弛みに似合っているので
はないかと選ばせていただきました。
期せずして花子さんの自己紹介を兼ねた兄上とのエピソードを読むことになり、
私がこの句に抱いたイメージがまさにその時ではなかったのかと思いましたが、い
かがでしょうか。
photo: s. mochida
野ざらしの身は風を呼ぶ芒かな 有馬朗人