投稿エッセイ
今月の「有馬英子その生い立ちと俳句」が休載となりましたので、関根瞬泡さんか
らエッセイを投稿していただきました。
『春の風』
よろこべばしきりに落つる木の実かな
みちのくの伊達の郡の春田かな
まさをなる空よりしだれざくらかな
俳句をやっている者なら誰でも知っているこれらの句は富安風生の若い頃に作ら
れたものである。
第一高等学校で夏目漱石に英語を習い、東京帝国大学では虚子等が指導する俳句
会があったにもかかわらず、それには参加せず、独自の道を歩んでいた彼は、後に
ひょんな縁で「ホトトギス」に投句するようやになったが、彼には、他人に学びつつ
も独自に進む姿勢があったようだ。
菜の花といふ平凡を愛しけり
こときれてなほ邯鄲のうすみどり
九十五齢とは後生極楽春の風
どの句も表現が分かりやすく、かつ、適確で、見る人の共感を呼ぶ。
私はいままであまり富安風生という人とその世界を知らなかったが、この度これら
の句に接してみて、その独自で、みずみずしく、適確な表現に触れたような思いが
する。私は日頃、俳句は他人の共感を得ることが大切だと思っているが、風生の句
にはそれがあるように思う。
これは、
落葉ふみ誰にもわかる句を詠まな
という句を見ても頷ける。
こういう先人の句には、こころすべきものがいっぱい詰まっている。
photo: y. asuka
豪雨止み山の裏まで星月夜 岡田日郎