わたしの好きな俳人の五句
北迫正男(きたさこ まさお) 選んだひと 加藤光樹(かとう こうじゅ)
自由句会誌「祭演」20周年記念句集掲載の30句「火を焚く」の中の5句です。
後朝のことは扨措きほととぎす
佐保姫の裾ひるがえる水門かな
梨を剥きすでに輪廻の途中なり
妄想が終わると眠い海鼠かな
緑陰とおぼしき昼が濡れている
原 英(はら えい) 選んだひと 神宮前小梅(じんぐうまえ こうめ)
ぶらんこを漕いで地球を忘れけり
風神の袋に桜詰めており
打ち水をやめてくださるまた歩く
サングラス嘘ついている鼻の穴
蓑虫の今尖りゆく途中なり
偶々Twitterで「うっかり」という人を知り、そこからその人のnote(ブログとは
違う作者とユーザーをつなぐネット上のサービス)への投稿を読んで興味を持ちまし
た。
元々は原 英(はら えい)という名で作品を発表していたようですが、もしかしたら
(まさか?)現在は「うっかり」に改名されていらっしゃるかもしれません。という訳
で、偶然辿り着いたご縁で5句選びました。(特に鼻の穴と蓑虫の句が好みです。)
プロフィールによると1982年生まれの徳島在住で、俳人協会会員、現代俳句協会
会員、徳島文学協会会員、すだち句会代表だそうです。(すだち句会、いいなあ。)
受賞歴は、第二回全国俳誌協会新人賞準賞、第十回北斗賞佳作、第五回円錐新鋭作
品賞推薦賞などとのこと。
俳句、短歌、詩等の作品でその作者の生計が成り立つような未来を一緒に作りた
い、ということで、「一枚の本」というクラウドファンディングを立ち上げる予定
だそうですが、クラウドファンディングしようと思う俳人ってレア者かも。いや、
今ってそういう時代なんでしょうか。
橋本多佳子(はしもと たかこ) 選んだひと 草野きょう子(くさの きょうこ)
白桃に入れし刃先の種を割る
日照るとき霜の善意のかがやけり
石よりも地よりも生ける蝸牛冷ゆ
九月来箸をつかんでまた生きる
いなびかり北よりすれば北を見る
これらの句には、冴えた感覚で、強い意志、命に対するいとおしみ、清浄な美へ
の憧憬などが表わされています。大胆で迫力のある表現が魅力的です。
沢木欣一は、「多佳子は久女の格調を継ぎ、誓子の厳しい技法に学び、三鬼・静
塔の人生派の影響を受けて、女性内面の声を俳句に定着せしめた」と述べています。
photo: y. asuka
短夜や碧に光る墨のしみ 平井照敏