わたしの好きな俳人の五句
有馬英子(ありま えいこ) 選んだひと 佐藤 桐子(さとう とうこ)
山彦を返してくれぬ霧の村
福笑いこれを自画像と決めた
俳人が春と言い張る二月かな
子供の日こどものいない静かな日
いざというときにはすがる蜘蛛の糸
有馬英子さんの『火を抱いて』に出合って丁度1年。この句集は、大きな悲しみ
の中にいた私を元気づけ、それまで無縁であった俳句の世界への扉を開いてくれま
した。拙いながら、17音に想いを込め句作することにより、少しづつ立ち直るこ
とができたように思います。今も傍らで私を励ましてくれている有馬英子句集から
の五句です。
長谷川 櫂(はせがわ かい) 選んだひと 関根瞬泡(せきね しゅんぽう)
「俳句は、わかるように、すっきり、いきいきと詠むのが良い」、とする彼のお考
えに同調する。
草原に風すこし立つ銀河かな
水仙の花びら氷りゐたりけり
かんたんの冷たき脚を思ふべし
一二寸浮くがごとくに涅槃像
渚にも水の沸きゐて桜貝
今井 聖(いまい せい) 選んだひと 飛鳥遊子(あすか ゆうこ)
雨吸って蜂の骸のふくらみぬ
魚籠の中しずかになりぬ月見草
さくらんぼ抜歯の痕に舌置いて
歩み寄る白鳥の白は飢ゑの白
目隠しの手袋にある匂ひかな
数年前、宇多喜代子著『戦後生まれの俳人たち』(毎日新聞)に、今井 聖さん
という昭和25年生まれのシナリオ作家でもある俳人が取り上げられていた。加藤
楸邨に師事し、『言葉となればもう古し』(朔出版)では徹底的に楸邨を語り尽く
し、大変面白かったので『ライク・ア・ローリングストーン(俳句少年漂流記)』
(岩波書店)で若き日々の逸話からお人柄などに触れた。
一読、何気なさげな句の裏では、繊細な感受性が確かに働いている。”誰にも似て
いない自分を書くこと。それが第一条件。失敗か成功かはその後の問題。人に似て
いる自分を書いて何がある。”との彼のツイートを見つけた。
(予定を変更して、遊子が飛び入り参加しました。来月は、関本朗子さん、田中 梓
さん、原宿美都子さんにお願いします。)
photo: y.asuka
羽もなく鰭もなく春待つており 藤井あかり