三徳の俳句森羅万象
海の日や千尋に叫ぶ倅の名 加倉井充子
海の日に因んだ句には明るくて活動的なのだけでなく、わが子を海で亡くした親、
母親の悲痛な感情を爆発させたものもあります。戦争で、海戦で多くの若者の命が
あっけなく失われた過去。漁業の遭難や大津波の災難など海の深いところに消えて
しまった命。千尋の深い海の底に向かって倅の名前を叫んでいるのです。あの「岸
壁の母」を彷彿とさせるものがあります。
下五の「倅の名」に母親の並々ならぬ思いが込められているのではないでしょうか。
photo: y.asuka
乳母車夏の怒濤によこむきに 橋本多佳子