三徳の俳句森羅万象
倒れしは一生涯のガラス板 桑原三郎
ガラス板がなにかのはずみで倒れて割れてしまったという状況を、5・7・5の
1句にしたものです。季語はありません。1枚のガラスが、あっと思った瞬間には
倒れて粉々になり、ガチャンという音響まで聞こえてくるガラスの生涯、この瞬間
をどのように句にするか。
倒れる、生涯、ガラス板という判り易い言葉を、助詞「は」と「の」で繋いだだ
けのシンプルさ。俳句を作る基本の心構えを教えてくれていると思います。何度も
繰り返し音読して、この基本を学びたいものです。
桑原三郎さんは昭和8年生まれ、86歳、現代俳句の重鎮です。揚句は昭和49
年、41歳のときの作。現代俳句協会70周年記念号『現代俳句年鑑』148頁に
「私の代表句、この一句」として掲載されております。
昨今のコロナウイルスの関係で、句会の皆さんと議論できないのが残念です。
3月の通信句会で私が特選とした句について、この場を借りて少し述べさせて頂き
ます。三木句会では特選1句を選ぶことになっておりますが、私の気持ちとしては、
特選にしたい句が3句ありました。それを天地人というならば、次の通りです。
天 卒業式素数となって旅に出よ 樹 水流
地 しじみ汁振り返らずに子は発ちぬ 関根朗子
人 汽笛鳴らし花のトンネル過ぎゆけり 神宮前小梅
天の句、素数という数学界の理屈っぽい言葉を季語「卒業」にうまいこと結びつけ
ています。
地の句、母と子の心理を見事にとらえて「しじみ汁」の季語がほのぼのと匂ってき
ます。
人の句、簡単すぎて皆さんがスルーしてしまったと思うのですが、遊園地のお猿電
車が活写されています。お猿さんの惚けた得意顔がよく見えてきます。
三木句会のいい句をもっと楽しみにしています。
Cyclists with Umbrellas Ⓒ David West