●外国人向け紹介テキスト原文

 

 同じ日本料理の範疇だとしても、すき焼き屋の評価を、お刺身割烹の基準ではしないですよね?

 

 同様に、三光院精進料理の評価を、単に「美味しい野菜料理」の基準でしたり、「お坊さんのための食事」と誤解されたままでいると、需要と供給が噛み合わず、不幸な出会いになりがちです。

 

 竹之御所流三光院精進料理とはどのような食事なのか?

 

 これから体験される方はもちろん、過去に体験されたことがある方々にとっても、この文章が理解を深める機会になれば幸いです。


 

●竹之御所流三光院精進料理の特徴その一『提供方法』

 

「料理は作りたてが一番美味しい」との慮りがあり、三光院の精進料理は一皿づつ作りながら提供されます。これは作り置いたものを順番に出していくものではありません。

 

 竹之御所流精進料理は、比丘尼御所において、皇女出身の住持に召し上がっていただくための料理として生まれ、発展してきた歴史があります。

「お姫様の料理」と表現されることもありますが、作り紡いできたのは歴史に名を残す皇女たちではなく、無名の尼さんたちであり、皇女と共に比丘尼御所に入った無名の女官さんたちなのです。

 したがってこの提供方法は、一般的なお坊さんのための精進料理とは異なる特殊な形式になります。

 

 現在、日本の精進料理は大きく分けると二つの系統が存在します。

 

 一つは普茶料理と呼ばれるもので、中国由来の精進料理です。特徴としては大皿で提供されます。大皿に乗せられた料理を皆が直箸でつつき合う文化がありました。

 中国の修行道場においては、一汁一菜の形式を守るために、料理自体は複数用意するのですが、提供段階では一皿にまとめて盛り付けるという形式を現在も続けています。

 

 もう一つは俗に雲水修行飯と呼ばれるもので、日本の僧侶が修行期間に限って食す料理を由来とします。

 身近なところでは、お寺の参拝者のために寺院周辺に存在する宿で提供される宿坊飯として知られています。

 特徴としてはお膳で提供されます。観光地化が進む現代においては、豪華なものだとお膳が三段にも重なって提供されたりもします。

 

 いずれの精進料理も、動物性食品、及びネギやニンニクなど五葷と呼ばれる刺激性食品を除いた食材で調理していくとの共通点はあります。

 

 しかし、逆にいうとそれ以外はそれぞれがかなり異なる背景を要しています。日本においては、お寺だけでなく、宗教的な背景を持たない一般的なお店においても実に多彩な精進料理が提供されています。

 

 分かりやすさのために一部比較を用いていきますが、この解説文はあくまで竹之御所流三光院精進料理に絞ったものとしていきます。

 疑問質問は時間の許す限り受け付けますが、それはあくまで三光院の精進料理に限ります。他の精進料理につきましては、実際に作っていらっしゃる方に直接お聞きください。

 

 また西井香春先生の著作を読んで来院される方の中には、とにかくお食事前や食事中に話しかけてこられる方がいます。が、前述のように、三光院の料理は作りながらお出しする形式を取っています。

 加えて全てのお客様と同じ進行時間を共有していただいています。質問などがある場合は、どうぞ食後の時間帯にしていただきますようにお願いします。