均分相続が生む悲劇 | 産経新聞を応援する会

産経新聞を応援する会

庶民万民を宝とされ「おほみたから」と呼ばれた皇室は日本のみ 陛下のもとに全ての国民は対等 法の下に対等です 人権は尊重されて当然ですが利権ではありません 産経新聞の応援を通して日本を普通の国にしよう

羨望のエリート医師一家で何が…殺害された母、自殺の長男は「病院もやって、母の面倒もみているのに」

2013.5.18 12:00 (1/3ページ)westセレクト
榎木麗子さんが殺害された自宅。1階が医院となっている=大阪府池田市内

榎木麗子さんが殺害された自宅。1階が医院となっている=大阪府池田市内

 親子で医師のエリート一家に何があったのか。家政婦付きの豪邸で、事件は起きた。大阪府池田市で4月、住人の無職、榎木麗子さん(72)が首を絞められ、殺害された。行方不明になっていた医師の長男(45)は電車に飛び込み、死亡した。研究熱心の長男は榎木さんにとって自慢の息子-のはずだった。だが、先代の夫が亡くなってから関係が悪化。背景には相続をめぐる家族間のいさかいがあったとみられている。思い通りの遺産が得られなかった長男は怒りもあらわに周囲に漏らしたという。「病院もやって、母の面倒もみているのに!」

2人の死者

 阪急宝塚線池田駅から約500メートル。マンションと見まがうばかりの3階建ての建物が、事件の舞台となった。

 1階は内科や小児科、アレルギー科を併設する「榎木医院」。2、3階は榎木さんの居住スペースとなっている。

 ゴールデンウイークも中盤の4月30日朝。最初に異変に気づいたのは、通いの家政婦だった。

 いつも午前8時15分に出勤する長男が来ない。2階の榎木さん宅も施錠されていて、中に入ることができなかった。困り果てた家政婦は、近所に住む榎木さんの次男(43)の電話を鳴らした。

 「お母さんの姿が見えません」

 次男から通報を受けた大阪府警池田署員がガラス戸を割って室内へ。榎木さんは風呂場でうつぶせに倒れ、すでに死亡していた。

 榎木さんは衣服を身に着けたまま。身体に打撲痕はない。浴室での転倒など事故の可能性は消えた。司法解剖の結果、首を絞められたことによる窒息死と判明した。

 兵庫県西宮市に住む長男とはその後も連絡が取れず、家族が1日、県警西宮署に捜索願を提出。そこで意外な事実が判明する。4日前の4月27日夜、西宮市段上町の阪急今津線の踏切付近で電車にはねられ、死亡した身元不明の遺体が長男と特定されたのだ。

あこがれの家族

 榎木さんの知人や住民らによると、現在の場所に医院が開設されたのはおよそ10年前のことだ。丁寧な診察で知られ、アレルギーや花粉症に悩む大勢の患者を抱えていた。

 医師の夫と長男に加え、榎木さん自身も薬剤師だったという。家政婦もいる裕福な一家は、周囲のあこがれでもあった。

 ただ、何不自由ない家庭だったわけではない。夫はがんを患い、数年前から闘病生活を送っていた。榎木さん自身、約10年前から全身の筋肉が痛む難病に悩まされていたが、昨年末に夫が亡くなるまで献身的に介護を続けていたという。

 榎木さんと40年来の付き合いという美容院の女性は「介護で本当に大変そうだったが、愚痴のひとつもこぼさない。薬剤師としても医院をサポートし、分刻みのスケジュールをこなしていた」と振り返る。

 榎木さんは事件直前の4月26日にもこの美容室を訪れた。「夫が亡くなった後の手続きで大変だが、もうすぐ落ち着く」と話し、「のんびり九州にでも旅行に行きたい」と笑顔も見せていた。

 夫の後を継ぎ、新しい院長となった長男もまた、母親譲りの穏やかな性格だったという。榎木さんも「東洋医学を勉強していて、本当に研究熱心」と感心しきり。母子の仲を疑う人はいなかった。

遺産トラブル

 榎木さんの遺体発見後、府警は殺人事件とみて捜査を開始。周辺への聞き込みや防犯カメラ映像の解析から、長男が医院を後にしたのは4月27日午後であることが分かった。

 この日、2人の間に何が起きたのか。長男はこの日、定刻の午前8時15分から正午まで診察し、いったん外出。一方の榎木さんは午後1時ごろから、院内応接室で次男や税理士とともに、亡夫の遺産相続について話し合っていた。長男が医院に戻ったのは午後2時ごろ。次男らが帰宅した夕刻からは榎木さんと長男の2人きりだった。

 このため、府警は長男が事情を知っているとみて行方を追ったが、結果は電車への飛び込み自殺。真相は闇の中に埋もれた。

「長男と榎木さんが最近亡くなった先代の遺産をめぐって険悪な関係になっていた」と明かすのは、ある捜査関係者。医院を継いだ長男は当然、優先的な分配を受けられるものと思っていた。「ところが遺産は次男、長女とも均等に分割することになり、長男はすっかり当てが外れてしまった」という。

 長男が行方不明になったのは、榎木さんが税理士を交えて遺産について協議した直後だっただけに、分配をめぐって何らかの口論に発展した可能性も否定できない。

 一方、別の捜査関係者は「遺産の問題があったのは事実だが、それぐらいで実の母親を殺すのだろうか。以前から感情的な行き違いがあったのかもしれない」と慎重な見方だ。

 長男が阪急西宮北口駅近くの閑静な住宅街に自宅を新築したのは約4年前のことだという。近くの70代の男性は「いつもスマートな雰囲気で、家族関係で悩んでいたようには見えなかった」と驚いた。

 良妻賢母だった榎木さんを襲った突然の悲劇。知人女性は「これまで家族のために一生懸命尽くしてきて、やっと自分の時間を楽しめるころだったのに。殺害された理由が遺産だとしたら、悲しすぎる結末だ」と涙ぐんだ。