鳥取市の郊外、国府町美歎の山あいに建ち並ぶレトロな構造物群。
それらは100年以上前に建設された水道施設。
美しく歎(なげ)くと書いて「みたに」と読む。
旧美歎水源地水道施設は、鳥取市が1915(大正4)年に全国で29番目、山陰地方では最初に建設した近代水道施設。
この施設が建設されるまで鳥取市街地の人々の多くは、鳥取城の外堀袋川の水を飲んでいた。水質は不衛生で疫病などが心配されたため、当時の鳥取市議会は1912(明治45)年に美歎地区に水源地をつくることを決定。
当時の市の年間予算の5倍に相当する総工費51万円※現在の貨幣価値で約20億円を投じ、日本人で初めて下水道・上水道を設計したとされる三田善太郎に依頼し2年の歳月をかけて水源地を完成させた。
ところが1918(大正7)年9月、台風でダム決壊し下流部の集落が流された。
これを教訓に日本で最初に築造されたコンクリートダム「布引五本松ダム」」の設計を担い神戸市水道創設の中核を成した佐野藤次郎の指導を仰いで復旧。
土堰堤だったダムはコンクリート工法を用いた重力式コンクリートダムに改修され1922(大正11)年に給水を再開した。
機能拡張に伴い1929(昭和4)年、濾過池増設。
一号~五号濾過池。
貯水池より導かれた水は、5つある濾過池にそれぞれ貯められ、「緩速濾過」という仕組みで浄化していた。
濾過池には浄化した水の送水量を調整するための「制水井」と「バルブ」が設置されている。
上屋はこれらを保護するためのもので、初期につくられた一号~四号は鉄骨鉄網モルタル造だが、後に増設された五号は建築技術の進歩により鉄骨鉄網コンクリート造となっている。
緩速濾過装置管理のためには、浄水の経路だけでなく、余分な水の排水路も重要なことから、「排水井」と呼ばれるマンホールがあちこちに設置されている。この排水井の中には、濾過池の戦場の際などに開放して、水が溜まらないようにするためのバルブが設置されている。
四号濾過池の西側にある接合井は、一号~五号濾過池より浄化された水を集め、下流へ送り出す施設。上屋は直径3.1mの円筒形で、外壁は煉瓦造モルタル仕上げ、ドーム屋根は鉄骨鉄網モルタル造。
制水井上屋と同様に凝った意匠が施されていることから、単なる保護建物としてではなく、近代水道施設を象徴するシンボルとしての役割もあったと考えられている。
ダム堰堤の規模は延長103m、堤高19.5m、水通し幅37.6m。堰堤上部から放水する越流式。
1978(昭和53)年、休止。1992(平成4)年に水道施設としての機能が完全に廃止されたが、その後も貯水ダムは砂防堰堤として現用されている。
土堰堤付属取水塔が遺っている。
一般的に水道施設は同一施設内で機能拡張や施設更新を行うが、鳥取市は豊かな水源に恵まれていたことから他の地域に施設を建設することで、給水人口の増加に対応してきた。そのため旧美歎水源地は量水施設や濾過施設の外形が当時のままの姿で保存されており、日本の近代水道施設の全体像をよく残している。
このことから歴史的価値が認められ、2007(平成19)年6月18日に国の重要文化財に指定された。
2011(平成23)年より国及び鳥取県の補助を受けて文化財の保存修理と活用整備を実施、2018(平成30)年に文化財施設として一般公開を開始した。
◇概要
名称:旧美歎水源地
所在地:鳥取県鳥取市国府町美歎698-2
文化財区分:国指定重要文化財
指定年月日:2007(平成19)年6月18日
種別:近代/産業・交通・土木
公開期間:4月1日~11月30日
公開時間:09時00分~17時00分
休場日:公開期間中無休 ※冬季は周辺が猟場となるため立入禁止
駐車場:50台
●アクセス
鉄道:JR西日本山陰本線鳥取駅からタクシーで約20分
バス:JR西日本山陰本線鳥取駅から日ノ丸バス中河原線乗車約30分因幡万葉歴史館入口下車約1.5km徒歩20分
自動車:鳥取自動車道鳥取ICより国道29号・鳥取県道251号国府正蓮寺線経由約9km20分
問合せ:鳥取市教育委員会事務局文化財課 電話0858-30-8421
■ホームページ
鳥取市|国指定重要文化財「旧美歎水源地水道施設」にようこそ!
◆参考資料
リーフレット「国指定重要文化財 旧美歎水源地水道施設」 鳥取市教育委員会 発行