田植えが終わったばかりの水鏡に映る赤瓦の寺院。

 

 

ひと月ほど前に訪れた倉吉市郊外、国府川上流の桜。

 

 

桜山大日寺は、寺伝によると平安時代の841(承和8)年第3代天台座主慈覚大師円仁(じかくだいしえんにん)の創建とも、988(永延2)年恵信僧都源信(えしんそうずげんしん)の創建(或いは再興)とも伝わる天台宗の古刹。

 

 

平安末期から鎌倉時代にかけて栄え、上院(大日堂・釈迦堂・薬師堂)・中院文殊堂・観音堂・普賢堂)・安養院(弥陀堂・経蔵)を中心に大伽藍が並び、300宇の坊舎を有していたと伝わる。

 

戦国時代に兵火よって灰燼に帰したが、1577年(天正5年)伯耆羽衣石城々主南條元続によって復興された。江戸時代初期には一宇の小寺であったと推測される。

 

江戸中期から後期に建てられたとされる旧本堂は老朽化により改装され、2021年に竣工した。

 

現在指定されている文化財は、国重要文化財である木造阿弥陀仏如来坐像、県指定保護文化財の木造薬師如来立像、木造菩薩形立像、石造大日如来坐像。

 

 

鐘楼脇に咲く紫のあじさい。

 

 

鐘楼奥に立つ灯篭は文化三年建立。

 

 

国指定重要文化財木造阿弥陀仏如来坐像は、修繕のため2021(令和3)年6月に京都国立博物館美術院に送られ、今年3月に作業が完了して戻ってきた。本堂裏の宝物庫に収蔵されており、拝観については要事前連絡。

 

木造阿弥陀如来坐像

国指定重要文化財

大正一一年四月一三日指定

 阿弥陀如来は西方極楽浄土にいて、すべての生きものを救うという仏。

 本像は像高一一五.二センチ、厚手のヒノキ材を組み合わせた寄木造の仏像。もとは漆を塗り金箔が貼られていたが、今ではかなりはげ落ちている。眼は彫りだされ、衣で両肩をつつみ、右足を上にして両足を組み合わせて座る姿につくる。両手とも指を折り曲げて極楽に迎える願いをあらわすが(来迎印)、左手を膝からやや浮かせ他の仏像にみられない形につくっている。膝裏に鎌倉時代の嘉禄二年(一二二六)につくったという墨書があるが、全体に平安時代後期の作風を残している。本像背後の光背と、仏像の座る台座は後ろにつくられ補われたもの。

 山陰地方における鎌倉彫刻の優品であり、つくられた年代が具体的にわかる貴重な仏像。なお、大日寺は慈覚大師が創建したと伝えられる天台宗の由緒ある古寺。

文部省

倉吉市教育委員会

平成三年三月作成

 

以上、案内書看板全文転載。

 

以下、本堂拝観及び撮影許可済。

 

 

木造薬師如来立像は、平安時代後期の作と考えられ、像高152cm。右手は施無畏印を結び、左手に薬壷を乗せる。針葉樹材の一木造によるもので、像内部を刳り抜く内刳りを施さない。

 

 

頭部の肉髻(にくけい)と地髪部の区別は明瞭ではなく、額が狭い。また、衣文が腹部から大腿部にかけてY字形となる特徴がある。

 

 

木造菩薩形像は十一面観音と伝えられてきたものであるが、十一面観音が定型化される以前の多面観音とみられ、最大で十七面であることが推定される。

 

 

像高158.5cm、薬師如来立像と同じく針葉樹材の一木造りで、内刳りは施さない。像の表面に節が認められることから、霊木を使用して製作された可能性がある。

 

 

薬師如来立像と衣文の表現に共通点があることから、これらは近い時期に作製されたと考えられる。

 

おや!!御足の下に・・・

 

 

石造大日如来坐像は、全国的にも珍しい安山岩を用いた一石造りであり、像高60.1cm。

 

 

両手を腹前に置いて定印を結ぶ、胎蔵界の大日如来像である。衣文の彫りは浅く、等間隔に彫られており、平安時代後期のものと考えられる。

 

 

旧寺址には鎌倉時代から室町時代の五輪塔群があり、1071(延久3)年の銘がある瓦経が出土している。

 

 

それは旧本坊とされる円地坊から極楽の峰へと上がる小道脇の経塚から400枚以上も発掘された。

 

 

紀年銘がある瓦経としては日本最古のもので、東京国立博物館や奈良国立博物館にも収蔵されている。

 

◆概要

名称:大日寺

所在地:鳥取県倉吉市桜354

宗派:天台宗

山号:桜山(古くは胎金山)

院号:

御本尊:阿弥陀如来

創建:841(承和8)年|再興:恵信僧都源信

開基:慈覚大師円仁|再興:988(永延2)年

寺宝:

木造阿弥陀仏如来坐像(国指定重要文化財)

木造薬師如来立像(県指定保護文化財)

木造菩薩形像(県指定保護文化財)

石造大日如来坐像(県指定保護文化財)

大イチョウ(県指定天然記念物)

駐車場:有

●アクセス

鉄道・バス:JR西日本山陰本線倉吉駅下車日交バス高城線大立行桜経由乗車30分桜バス停下車徒歩5分

自動車:倉吉道路西倉吉ICから鳥取県道34号倉吉赤碕中山線経由10km20分

 

◆参考文献

冊子「倉吉文化財さんぽ」 倉吉市教育委員会 発行 令和3年(2021年)1月2刷版

中国四十九薬師霊場会 - 第42番札所