水木しげるロードにある河童の泉の片隅に佇む一本の木。


枝垂れ槐 2014.05.30

 

もっさりと葉を茂らせたその様子は、どこか妖怪の気配を感じます。

 

この木は「枝垂れ槐」、木へんに鬼と書いて「えんじゅ」と読みます。字面からして何か恐ろしげな印象です。

 

実際に槐が化けて人の命を取ろうとしたという恐ろしい話が伝わっています。

 

槐の邪神

 

 昔、甲州(現・山梨県)の身延山の麓に、大木が立ち並ぶ森があり、その中に大きな槐の木があった。その精霊を祀るものか、そばには粗末な社があり、日暮れてからそこを通行する者は、金銀や衣類や金目のものを供えなければ、かならず崇りがあると恐れられていた。精霊とはいうものの、地元では大森の邪神とよばれていたのである。

 あるとき、貧しい農民が母親の危篤の知らせを受け、急いで実家に帰らなければならなくなった。大森の邪神の前を通るのが一番の近道だが、あいにく供え物がない。仕方なく、あとで供え物をもってきますとその邪神に断って、先を急いだ。すると、邪神は甲冑をつけた武士となり、男を追いかけてきた。男は頭を地面にすりつけて謝り、やっと許してもらった。

 後日、貧乏ながらも五百文の銭を供えに行くと、邪神は金額が気に入らないとみえて、農民を鍋で煮て食べようとした。しかしそのとき、農民が日ごろから信仰している不動明王の童子が現れ、邪神を退治し、今まで邪神が集めていた金目の品々を、農民に与えてくれたという。

 これは槐の精霊というよりも、大木に住みついた妖怪だったのだろう。

 

以上、『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』(講談社)より

 

 

近道させる代わりに法外な通行料をせしめるという、なんとも俗っぽい妖怪です。現代にも似たような商売を営む人が無きにしも非ずですが・・・。

 

水木しげるロードに立つ枝垂れ槐が通行料を要求したという話は聞きません。水木ロードには年間300万人近い人が訪れます。この木が仮に通行量を徴収して溜めこんでいたとしたら、その金銀財宝はドリームジャンボ宝くじの1等当選どころの金額ではありませんね(笑)

 

だからといって、木の根元などを掘り返さないように!!市の都市整備課に怒られます。その上、境署のお世話になることは火を見るより明らかです。

 

春から夏にかけては青々と葉を茂らせるため、木陰の少ないロードにおいて、観光客の涼める貴重な場所になっています。


枝垂れ槐 2014.05.30

 

ただし落葉樹のため、秋から冬にかけて葉が落ちます。


ロードに沈む夕日 2012.12.20

 

その姿も実に妖怪的。これを見ると通行人から金をせしめないまでも、歩き回っているかもしれないと疑ってしまいます。

 

◆参考資料

『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』 水木しげる 著 講談社 発行

『日本妖怪大事典』 水木しげる 画 村上健司 編著 角川書店 発行