昭和を代表する推理小説の巨匠、横溝正史。その代表作のひとつ『八つ墓村』は、近隣で発生した「津山三十人殺し」に衝撃を受けて書かれた架空の物語です。舞台とされた岡山県北には、今もその物語を感じさせる風景が残っています。
劇中「八つ墓村」は、鳥取県と岡山県の県境にある一寒村とあります。その村の名前は、近隣に実在した真庭郡八束村（現：真庭市蒜山）です。
初出は１９４９年３月、雑誌「新青年」で翌１９５０年３月までの１年間連載。同誌の休刊を経て、同年１１月より雑誌「宝石」で翌１９５１年１月まで続編として連載されました。
『本陣殺人事件』（１９４６年）、『獄門島』（１９４７年）、『夜歩く』（１９４８年）に続く名探偵金田一耕介シリーズ長編第４作に当たります。戦時下に疎開した岡山県で体験した風土や習俗を基に同県を舞台にしており、いはゆる「岡山編」といわれるもののひとつです。山村の因習や崇りなどの要素を含んだスタイルは、構成のミステリー作品に多大な影響を与えました。
横溝作品の中では最多となる９度（映画３本、テレビドラマ６作品）映像化されています。
中でも一番印象に残るのが１９７７年（昭和五二）年に公開された映画「八つ墓村」。２年３ヵ月にも及ぶ撮影期間、当時の金額で７億円、現在の価値に換算し直すと１５億円という巨額の製作費。人気俳優の豪華共演。そして「崇りじゃ～！八つ墓の祟りじゃ～！」という流行語にまでなったキャッチコピー。この超大作映画は、野村芳太郎監督をはじめとし、脚本に橋本忍、撮影に川又昂、音楽に芥川也寸志という日本映画界最高のスタッフによって製作されました。配収は当時の金額で１９億８，６００万円という松竹映画にの歴代に残る大ヒット作になりました。
村の場面の撮影場所は１年半を費やし、車で８０００ｋｍを走ったロケハンによって全国各地から探し出され、映画のマジックとしてひとつの村につなぎ合わされたのです。
その幕開けは岡山県真庭市、旧勝山町神庭にある「神庭の滝」です。
１５６６（永禄九）年、毛利との戦に敗れ落ち延びてきた、尼子義孝ら一党が断崖を越えるシーンが撮影されました。
「日本の滝百選」に指定された神庭の滝は、標高１０３０ｍの星山を水源とした豊富な水量で、高さ１１０ｍ、幅２０ｍという中国地方随一のスケールを誇る名瀑です。
切り立った断崖を流れ落ちる豪快な滝。
白布をまとったようにも見える水しぶきは神秘的な美しさです。
滝の中央に突起した黒い岩。
落下する滝に逆らって昇る鯉に似ていることから「鯉岩」と呼ばれています。
劇中、この断崖絶壁で幾人もの武者たちが命を落としました。生きるという強い意志で登りきって残った八人。その落ち武者たちが峠から見た景色とは？
それは次回。
なお、尼子義孝は架空の人物です。
神庭の滝の下流、料金所手前に滴り落ちる幾本もの雫は「玉垂の滝」。
玉垂の滝
年中たえることなく落ちる水滴は、水晶の玉を連ねた姿を思わせて、「玉垂の滝」と名付けられた。
また、降りそそぐ雨が草ぶき屋根の軒先から落ちる雨だれにも見ている。
以上、案内看板転載
料金所の裏を左に入り、石段や急な坂道など多大な苦難を乗り越えた先にあるという「神庭の鬼の穴」。
石灰岩が水の浸食されて出来た洞窟です。入口付近の高さ約８ｍ、幅１．５ｍ、奥行約７５ｍにも及びます。最奥部は幅も狭く土砂が堆積していますが、この奥には西に約３ｋｍ、国道１８１号沿いにある「神代の鬼の穴」に通じているという伝説があるそうです。
神庭の鬼の穴へは、ここから往復約４０分。体力と時間を考慮して今回は断念。
マムシや落石にも注意しなきゃいけないしね。気力・体力が充分な時に再チャレンジします。
なお園内には、餌付けされた野生の猿が約１８０匹暮らしています。野いちごなどが実る５～６月、秋の木の実が成る頃は山に入り、当園内で姿を見ることはできません。
◆施設概要
名称 神庭の滝
所在地 岡山県真庭市神庭
TEL 0867-44-2607 真庭市役所勝山市局総務振興課
TEL 0867-44-2701 神庭の滝自然公園管理事務所
開園時間 午前8時30分～午後5時15分
休園日 年末年始
入場料 大人300円・小中学生150円※20名以上は2割引きとなります。
アクセス
国道313号から県道（神庭滝線）に入り、道なりに進む。
JR姫新線勝山駅から車で約10分
高速道久世・湯原ＩＣから25分、落合ＩＣから30分