小豆島の南岸を走る国道436号線、小豆島町西村水木のカーブの手前、内海湾に面した海っ端に不思議な木がありました。

 

小豆島バス・水木バス停 2003.02.25

その木の様子が明らかにヘン!!

なんとなく気になったのは6~7年ほど前。国道沿いの見通しのいい場所であったにもかかわらず、まったく気づきませんでした。記憶にはありませんが、この前に民家があり目隠しになっていて見えなかったのかもしれません。

 

場所は竹生(たこう)海水浴場の東の遊歩道沿い、水木荘という貸別荘のとなりです。


竹生海岸 2008.08.31
竹生海岸 2008.08.31
竹生海岸 2008.04.06

 

ある時、ふと気になったので、小豆島オリーブ公園入口に立つ「オリーブナビ」に車を停めて見に行ってみました。

 

海に面した一本の大木。

 

むむむ!!

 

木のクセに地面に手をついて、這いずっている体。


水木今宮大明神 2008.04.06

 

おそらく台風かなにかで倒れたのでしょう。


水木今宮大明神 2008.04.06

 

根っこが露出しています。


水木今宮大明神 2008.04.06

 

ひょっとして枯れてる??

 

ところが、1ヶ月後、国道436号を走行中・・・!!

 

なんだ、あれは!!


水木今宮大明神 2008.05.06

 

青々と茂る葉!!


水木今宮大明神 2008.05.06

 

倒れてもなお、生きようとするこの姿勢。


水木今宮大明神 2008.05.06

 

う―――――む、なんという生命力。

 

夜中に這いずりまわってる様相!!


水木今宮大明神 2008.05.06

 

この木は、木霊(こだま)か樹木子(じゅぼっこ)か!?

 

はたまた、森殿(モイドン)かヤシ落としか!?

 

あるいは、人面樹かウドラーか!?

 

木にばかり気をとられがちですが、木の陰に石の祠が祀ってありました。

 

水木今宮大明神
水木今宮大明神 2008.05.06

 

ややっ!!その由来書きを見てオドロキの事実が判明!!


水木今宮大明神 2008.05.06

 

今宮さん

 昔、当地の人と苗羽の人が沖に漂う長持ちを見つけ、中身は折半の約束で漂着を待った。着いた長持ちをあけると中には無数の蛇が入っていたので、そのまま閉じてこの地の大樹の下に埋め、小さな祠を設けて祀ってきた。祭日には地区の人だけでなく苗羽からもお詣りがあったと伝える(村誌)。現在の祭日は7月7日。地区の人々によって祀られている。

西村自治会・西村公民館村誌を読む会

 

以上、由来書き看板転載

 

この木の生命力の強さは、足元に埋められた無数の蛇の精気のなせる業なのか!?

 

それはさて置き、「ふはっ!!」とオドロいたのは、神社の由来です。水木しげる氏の著書に見た、背筋が寒くなった実におぞましい話の発祥がこの「水木今宮大明神」だったからです。

 

蛇蠱(へびみこ)

香川県の小豆島でよくいわれるものに蛇蠱がある。この家の者が、「あいつは憎い」と思うだけで、その相手は悩まされるという。あるいはその相手の臓腑に蛇が食いこんで、相手は死んでしまうともいわれている。

この蛇蠱の起源として次のような伝説がある。

昔、小豆島の海岸に長持がひとつ漂着した。すると、村の者が次々と集まってきて、その中身もみないうちから、

 「これを発見したのはわしじゃ」

 「いや先に見つけたわしのものじゃ」

 と、互いに占有権を主張しあった。誰も譲るものがないので結局、

 「では、発見者であると主張する者どうしで中の品を分けあうことにせよ」

 と長老がいうと、ようやく納得して、その長持を開けることになった。みんな、何が出てくるのかわくわくして、長持のまわりに集まった。蓋が開いた。すると、中から出てきたのは、たくさんの蛇だった。蛇は長持ちから出て来るなり、いくつかの家に這いこんでしまった。その家の主というのは、いずれも先に占有権を主張したものばかりで、これがすなわち蛇蠱の元祖だという。

 人間あまり欲を出しても、憑物を呼び寄せるということかもしれない。

 

 

以上、『水木しげるの憑物百怪(下)』(小学館)より


この話の初見は1999年、そのあまりにも不気味でおぞましいイラスト。ソフトガレージ発行の『妖鬼化(むじゃら)―水木しげる作画活動50周年記念出版原画集〈第4巻〉日本編(四国・九州・沖縄)で見た“長持から這い出した無数の蛇”が描かれたそれです。

 

水木氏の描かれる蛇は実に写実的。うろこや目、舌など、それこそ動きだしそうなぐらい実にリアル。特にこの「蛇蠱」は、蛇が嫌いな方は絶対にご覧にならないでください。トラウマものです。

 

島にこのような話が伝わっていること自体を知りませんでした。ただし先日も述べたように、現在でも島内で蛇の姿を多く見かけます。子どものころなどは、家の雨戸の戸袋の中に蛇が入りこんでいたり、井戸の周辺や木の洞、土蔵の中などで見かけ恐れ慄いたものです。

 

10年ほど前、この祠にほど近い西村の農免道路で、驚くほど長くて太いアオダイショウが横たわっているのを見た時は卒倒しそうになりました。と同時に捕まえてやろうと思って近づくと、その蛇はちらりとこちらを見てニヤっと笑ったかと思うと、ズルズルと大きな音を立てながら全速力で藪の中に消えていきました。

 

また島には蛇にまつわる伝説なども多く、むかしはいたる所で蛇と遭遇し蛇そのものや、傷つけたりした場合にその崇りなどを恐れていたものと思われます。

 

蛇はしばしば神の使いであると同時に、人間に危害を加える自然の猛威や、人の悪心に例えられます。この「蛇蠱」の話は、人間の欲深いあさましさを戒めた話なのかもしれません。

 

およそ1ヶ月後、国道436号を走行中・・・!!

 

目を疑うような光景に遭遇!!


水木今宮大明神 2008.06.27

 

えっ!?木がない!!


水木今宮大明神 2008.06.27

 

どうやら伐採されて、根も撤去されたようです。


水木今宮大明神 2008.06.27

 

根の下から長持が出土したのでしょうか?


水木今宮大明神 2008.06.27

 

祠の位置は変わっていないようですが、由来書き看板が祠の横に移動されています。

 

その後、国道沿いに民家が建てられていました。


水木今宮大明神 2009.10.12

 

このため倒壊の可能性がある木は撤去されたようですね。

 

ただその後、祠の背に植えられた木は枯れてしまっているようです。


水木今宮大明神 2009.10.12

 

「蛇蠱」の伝説地が姿を変えてしまったのは残念ですが、そうなる前に気づいて写真に遺せたことはよかったと思います。

 

◆参考資料

『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』 水木しげる 著 講談社 発行

『日本妖怪大事典』 水木しげる 画 村上健司 編著 角川書店 発行

『水木しげるの憑物百怪(下)』(小学館) 水木しげる 著 小学館 発行