境港といえば、西日本有数の水揚げを誇る一大漁港であるため海のイメージが強いですが、海岸線を外れるとのどかな田園風景が広がっています。

 

そのような田園地帯において、しばしば奇妙な光景を見かけます。


鬼が沢 2013.05.17
鬼が沢 2013.05.22

 

それは岡田商店から鳥取県道285号(米子空港境港停車場線)を隔てた西側の水田地帯、その真ん中にぽつんと浮かぶ島のようなもの。


鬼が沢 2013.05.22

 

人が足を踏み入れた形跡はなく、草木は伸び放題。


鬼が沢 2013.05.22
鬼が沢 2013.05.22

 

長閑な田園風景の中で異様な雰囲気を醸し出しています。

 

病田(やみだ) 

 

 東日本各地には病田と書いて、ヤミダとかヤマイダとよぶ土地がある。いずれもその土地を耕作すると田の持ち主が病気になる(栃木県足利市)とか、凶事になる(宮城県伊具郡丸森町)、災害が続く(新潟県魚沼郡)などといわれた。

 静岡県の富士山麓地方では、昔は集落にかならず一つや二つの病田があり、そこには石でつくった小さな祠が祀られていたので、すぐにそれと判別できたそうである。ここで田を耕作すると崇りがあるといい、作物をつくらないまでも、ここに田をつくると他言して約束しただけでも、その主は死ぬとか、あるいは非常に重い病気で一家一同が悩まされるのだといって、ひどく忌み嫌われたという。

 その原因を、駿東郡清水村(現・清水町)では、病田の前にある堀に流れてきた人の首を、十分な供養を施さずに、そのまま埋めたからだといっており、他の土地でも病田の土地を掘り起こしてみたら、人骨がザクザク出たなどという話もある。

 つまり一種の怨霊ともいうべき霊が、田に取り憑いて祟るのである。そこで病田に憑いている霊を祀ることによって、以後崇りがなくなったという話もある。

 

以上、『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』(講談社)より

 

これは上述のような病田、あるいは森殿(モイドン)の類なのでしょうか?


鬼が沢 2013.05.17

 

周辺はすべて切り開かれた田畑が広がっており、この島らしきものだけが取り残されたようです。

 

鬼が沢 2013.05.17

 

たまたま知り合った地域の歴史家の方にお伺いしましたところ、この周囲は「鬼が沢伝説」が残る土地だということでした。

 

現在米子の勝田大明神は、昔は浜の目外江村にあったそうです。600年ほど前、新屋町に移られたといいます。その社の側に「鬼が沢」という大池があり、種々の悪蛇・毒虫の巣窟であったため人民を悩ませていた。そのため毎年3月に悪蛇・毒虫の形を餅で作って神前に供えて邪気退治の祈祷があり、人々は害から逃れることができたということです。今でも3月16日花祭りと号して町中家に桜の作り花を出すといいます(寛政一二年、伊藤玄見編、天保三年藤原清長補「米子神社由来記」より)。

 

・・・とすると、この場所は勝田神社の跡地ということでしょうか?ただそれらしい伝説地としての看板や案内などは一切ありません。

 

この周辺は、かつては不毛の湿地帯であったとされています。そのためこの地が開拓される過程を物語って、数々の伝説が語り伝えられています。それらは時代や地域が異なると、浪士が盗賊の一団を退治するなどといった話の内容に変化していっており、いくつもの伝説が遺されています。いってみれば、暴れ川の斐伊川をスサノオノミコトが平定した「八岐大蛇伝説」のようなものでしょう。


鬼が沢 2013.05.22
鬼が沢 2013.05.17

 

以前は泥や石などで崩れない程度に島影が保たれていただけであったということですが、今では土地改良によって、島の周囲はコンクリートで固められています。

 

ただ現在でも、泥田の一部に深みが残っており、腰のあたり(約1m)ほどまで沈み込む場所もあるということです。

 

田畑の真ん中にこのような草茫々の場所があると、かえって害虫や蛇の棲家となってしまうため、草刈りなどをして、それらの巣窟とならないようにするものです。


鬼が沢 2013.05.22
鬼が沢 2013.05.17

 

草木が枯れる冬場においてもご覧の有様。


鬼が沢 2014.01.14
鬼が沢 2014.01.14

 

悪蛇や毒虫が冬の眠りについている間にも草刈りなどをしないということは、未だに立入ってはならない、あるいは触れてはならないという「ナニか」があるのかもしれません。その謎の解明が待たれるところです。

 

なお、境港を走らせる力・はまるーぷバスの車窓からも見ることができます。


鬼が沢 2014.01.14
鬼が沢 2014.01.14

 

境港伝説巡礼01

名称:鬼が沢

●アクセス

鉄道:JR境線・「高松町駅」下車1km15分

バス:はまるーぷバス・メインコース「足立医院内科前」下車5分(メインコース左回り・境港駅から約20分)

 

◆参考資料

『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』 水木しげる 著 講談社 発行

『日本妖怪大事典』 水木しげる 画 村上健司 編著 角川書店 発行