商都大阪の繁華街ミナミの中心、心斎橋に大阪を代表する百貨店の大丸があります。
大丸心斎橋店は地上7階建、大正末期から昭和初期にかけて建てられたアメリカンゴシック建築です。
設計したのは、アメリカ人建築家のウイリアム・メレル・ヴォーリズです。日本で最初にメンソレータムを販売したことで知られる人物です。ヴォーリズは、関西を中心に1600を超える建築を遺しました。
日本の百貨店建築の最高峰ともいえる大丸心斎橋店(しんさいばしみせ)ですが、現在その建て替えが検討されています。
「J.フロントリテイリング」が10日発表した中期経営計画に「心斎橋地区再開発計画」の具体化を盛り込んだことを受け、翌11日の「朝日新聞」が“完成から81年経つ大丸心斎橋店本館(大阪市中央区)が、建て替えられる見通しになった”と報じました。
上記報道から10日ほど経ちましたが、同社からは特にコメントが出されることもなく至っております。以前、同店建替えの報道が流れた際、即座にそれを否定するリリースが出されました。しかし今回は同社の中計に基づく記事であるため、同社としては否定する理由も根拠もないということでしょう。
J.フロントリテイリンググループ「2014~2016年度 中期経営計画」について
上記PDFの5ページ目に下記のように書いてあります。
【心斎橋地区再開発】
大型商業施設のオーバーストア化で競合が激化する大阪地区での競争力を抜本的に強化するため、大丸心斎橋店(本館、北館、南館)を中心に周辺の不動産・商業施設活用を含めた心斎橋地区再開発計画の具体化を進めます。
「2011年問題」といわれた在阪百貨店の建替え増床が相次ぎ競争が激化。キタにではH2Oリテイリングによる阪神百貨店の建替え計画が進行中で、今後さらなる競争激化が予想されます。それを受けて心斎橋店も建替えにより競争力を高める必要に迫られてきたということでしょう。
売場の天井高や通路幅、バックヤードの使い勝手などの設備力の高さによって、同社札幌店が既存百貨店を蹴散らした実績があることから、その必要性を痛切に感じていることは想像に難くありません。その反面、同店の進出に際して北海道のニーズに合わせMDを工夫したり、関西ことばの使用を禁止したりと様々な施策に加え、無競争に慣れきり、その地位に安穏とあぐらをかいていた既存店の自滅によって大成功を収めたことも承知をしているものと推測できます。
建設から80年を超え建物の老朽化は否めず、売場は改装によって体裁は保たれているものの、バックヤード環境の悪さは如何ともし難いものがあります。また来たるべき東南海沖地震への備えも急務です。安全面で不安が残る建物にお客様をお迎えできないということもあるでしょう。
現在の同店売場面積は、本館・南館・北館(旧そごう心斎橋本店)の3館合計で77490平方メートル。あべのハルカス近鉄本店100000平方メートル、阪急うめだ本店の80000平方メートル、高島屋大阪店78000平方メートルに次ぐ市内では4番目の売り場面積となっています。また売上も83944百万円と大きく離されています。
文化財的価値が高いといわれる同店の建物ですが、今後の生き残りをかけ建替えを進めていくものと思われます。ただし建替えによって、阪急や高島屋、近鉄に勝てるかどうかは甚だ困難なのではないかとも感じるところではあります。極端な憶測ですが、大丸松坂屋百貨店を運営するJフロントリテイリング(以下、JFR)が収益性を重視するなら、寧ろ建替えによって百貨店業から撤退するのではないかとも・・・。
JFRが松坂屋銀座店跡地に開発中の「銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業」では、1フロアの床面積が6100平方メートルと東京最大級の地上13階、地下6階建複合ビルが2日に着工しました。完成予定は2016年11月ですが、JFRの山本社長は「旧来の百貨店はやらない。全く新しい商業施設にしたい」と述べ、松坂屋という名称では出店しない考えを明らかにしており、「松坂屋銀座店」の復活はありません。もちろん「大丸銀座店」でもないでしょう。
また松坂屋上野店南館跡地に建設する超高層複合ビルでは、松坂屋は地下1階の食品売り場のみの出店に留まり、他のフロアはパルコ、TOHOシネマズ、賃貸オフィスとなる予定です。
上述のようにJFRは他業種の有力テナントを入居させ売場を構成し、より幅広い客層のニーズに応える脱百貨店政策を進めています。これに則ると、従来型の百貨店としての大丸は建替え後入居しない可能性が極めて高いものと考えられます。従来型の百貨店はそごう心斎橋本店を買収した北館のみになるのではないでしょうか。銀座店跡や上野店南館跡の再開発のように、パルコや専門店、シネコンや賃貸オフィスにする公算が大きいと思われます。
長く御堂筋の代表的景観として大阪の人々の心に刻まれた大丸心斎橋店。
そう遠くない日に大きく姿を変えてしまうかもしれませんね。
あくまでも仮定の話ですが、景観に配慮して建て替えを実施するならば、このような代物でしょうか。
良し悪しは別として・・・
大丸の創業は1717(享保二)年、まもなく創業300年を迎えます。大坂・心斎橋進出は創業から9年後の1726(享保一一)年。
JFRの方針次第では、大丸が心斎橋開店300年を迎えることは叶わないかもしれませんね。
◇データー(2011年度)
大丸 大阪心斎橋店
大阪市中央区心斎橋筋1-7-1
TE06-6271-1231
営業時間=10時~20時(本館地2F~4F・北館地2F~6Fは10時~20時30分、本館8F・屋上・北館13Fレストランフロアは11時~22時、南館地1Fは10時~21時)
売場=本館B2~8F・RF、北館B2~14F・RF、南館B1~8F・RF
売場面積=77,490平方メートル
年商=893.44億円
16/221(11年度百貨店店舗別売上ランキング)
※参考資料(1999年度)
売場面積=37,490平方メートル
年商=967.02億円
18/1000(99年度大型店舗ランキング)
参考文献
『日経MJトレンド情報源2013』 日経MJ(流通新聞)編 日本経済新聞出版社 発行
『流通経済の手引き2001』日経流通新聞)編 日本経済新聞出版社 発行
「月刊ストアーズレポート 2012年6月号」 ストアーズ社 発行
「月刊ストアーズレポート 2000年5月号」 ストアーズ社 発行
以下、「建設通信新聞」2014.04.11より転載
J・フロントリテイリング(JFR)は、東京・銀座六丁目10地区再開発計画、松坂屋上野店南館建て替え事業に続き、大阪心斎橋地区の再開発計画に着手する。「大型商業施設のオーバーストア化で競合が激化する大阪地区の競争力を抜本的に強化する」(同社)ため、大丸心斎橋店(本館、北館、南館)を中心に周辺の不動産、商業施設活用を含めた心斎橋地区再開発計画の具体化を推し進めるという。10日、同社が発表した今期を初年度とする3カ年の中期経営計画(‐2017年2月)の中で明らかにした。3年間で1300億円以上の営業キャッシュフローを創出し、うち1100億円を主に大型設備投資と成長投資に投入する。
中計は、16年11月に銀座六丁目10地区再開発計画の開業を予定しているほか、17年秋に松坂屋上野店南館建て替えのオープンを予定している。
17年以降の飛躍を見据え、新百貨店モデルの確立に向けた取り組みをさらに推し進めるとともに、パルコやスタイリングライフ・ホールディングス(SLH)、フォーレストを加えたマルチリテイラーとして取り組みを強化することで顧客の幅広いニーズに応え、グループの競争力、収益力を抜本的に強化するという。
パルコは16年春の開業を目標に仙台地区2店舗目となる仙台新館(仮称)の開発を進めるほか、名古屋(14年秋)や札幌(16年春)など7物件以上の開発を目指すとともに、売り場面積の約15%規模を毎年リニューアルする。
海外は、上海新世界大丸百貨店(中国)、JFRプラザ(台湾)を通じ、今後の事業展開や他のアジア諸国出店につなげる。