“未遂”ということがあった。
もう昔の出来事だから忘れていたけどニュースを見て思い出してしまった。
その人は仕事の関係者だった。
友達でも恋人でも無く普通に仕事で絡んでいた人。
二人でお茶や食事をした事はあったし、
プライベートな話の流れになった事もあった。
打ち合わせという名の下での二人の空間だったから仕事の一環なはずだけど。
ある頃から会話の中で好意がある様なニュアンスを感じる事が多くなり、
うまくかわしたり軽く流したりなるべく話を仕事に持って行く様にしていた。
とは言え、ハッキリと告られた訳でも無いし、具体的な話をされたとかも無かったから明らかに避けるのも失礼かなと考えたりもした。
何度か悟られない様、二人にならないようにしたり、約束を先延ばしにしたりが続いた頃、長文のメールが届き、会うことになった。
長文のメールの中身は、現在未来の二人についての夢と希望が詰まっていて、理解しがたい内容もあり、少し恐怖も感じた。
念のため、何かあった時に助けて貰えるよう友人に近くで待機してもらい、明るい公園で会った。
いきなり言われた。
結婚しましょう。
僕は準備は整っています。
準備はもうしてあります。
今から一緒に行きましょう。
はじめて見た、婚姻届。
その人の欄にはしっかりと記入があって、私の方には空欄がいくつかあった。
証人の欄には知らない人の署名。
一瞬、へー婚姻届ってこういう感じなんだって思ったのは覚えてる。
そこから記憶が飛び飛びになっていて、何をどう話したのか思い出せない。
友人が私の隣に来ていてその人に尋問をしていた。
今日私と会えなかったら婚姻届を一人で届出するつもりだったこと。
1日でも早く済ませたかったこと。
挨拶は入籍してからでも遅くはない。
悪気はあるはずがないと。
先走ることは良いことでは無い。
感情のコントロールがうまく出来なかったのだとしても無許可はだめ。
密かに勝手に嫁にしたところでそこに幸せなんて生まれないんだから。
婚姻届はその場で破って無効にした。
その場で私の連絡先も消去した。
フォルダに私の写真があったのでそれも削除した。
本人の前で堂々と勝手に私の存在を抹消した。
これでおあいこ。
もしもあの時届出されていたとしても、
きっとケッチンくらっていたでしょうからまぁいっか笑