病院の人間模様でいうと、のちに今も続く大切な出会いがあるが、しばらく治療を主軸に書いていきます。

  

 前回の入院で、お互いをなぐさめあっていた専業主婦のMさん。

 

 

  

 彼女から電話があった。

 「藤田さん、本当にお久しぶり。元気にしてる?」

 

 「いえ、、それが、私、再入院になってしまって・・」

 

 「え?同じ病院に?」

 

 「そうです。前と同じ病棟ですよ」

 

 「私もものすごく調子が悪くて、気力がわかないの。ごはんも作りたくないし、お掃除もできない。何もできないの・・・」

 

 「わかりますよ、わかりますよ」

 

 「主人からは、家にいるんだからやってくれって言われるし。私だってやりたいの」

 

 電話口で泣いている。

 

 つられてはいけない、と私はなるべく冷静にと思ったが、

 

 この「何もやりたくない」が、うつ病ではない周囲には永遠に理解できないし、いらだちにつながる状況もわかる。

 

 そして、それに対して気をやんだり、できない自分が価値がないような気がしてしょうがない気持ちも。

 

 「Mさん。また入院するのも手かもしれませんよ」

 

 「無理よ、、もう。だって子どもたちの世話もう母はできないって言ってるもの。夫も。踏ん張らないと」

 

 わかる。周囲を大いに巻き込む入院。

 

 うちで言えば、また2人育児再登板を強いられている義母がうんざりしているだろう。

 

 前回は、私の実母は祖母の介護があって、サポートに入っていなかったが、今回はやろうと思えばできるのである。でも2点において、また義母が再登板した。

 

 1,子供たちに慣れていて、子どもたちも信頼している

 2,夫が遠慮しないで暮らせる

 

 孫は来てよし、帰ってよし、自分のホームでもない場所で人生狂わされて孫の育児と息子夫婦の家守ることになったのは本当に申し訳ないと思っている。

 

 電話をおいて、ずんと重くなった。

 

 この精神病院で知り合った人と連絡を取り続けるのに功罪はある。

 

 良いことは、励ましあえること 悪いことは引きずられること。

 

 私は、引きずられないようにしようと思ってはいたが、「Mさんもか」という何とも言えないどす黒いものが覆っていた。

 「うつ病は再発するんだ」という現実を自分でも受け、戦友にも受け。

 なんともやるせない気持ちになっていた。

 

 そして、その3週間後、Mさんは再入院してきた。

 「驚いたでしょ?太っちゃって」

 

 Mさんは前はほっそりした人だった。元陸上部の選手だったというが手足が長く。

 その彼女が、私よりも胴回りも大きくなっている。軽く20キロは増えていると思った。

 

 「恥ずかしんだけど、気分が落ちんだりしたら、とにかく物が食べたくてt、菓子パンとか。食べだしたら止まらなくて」

 

 わかる。あの脳が壊れたように、お腹がいっぱいなのに過食してしまうドカ食い。

 

 食べたことの達成感、そのあと襲ってくるどうしようもないうっつくつかんと体のだるさ。

 

 彼女は、うつ病から過食症も併発していたのだ。

 

 今回の入院では、Mさんとは距離を取るようにしていた。べったりになってしまって私も引きずられてらいけない、というのと、このうつスパイラルから抜けないとと思っていた。

 

 カウンセリングにもまた通っていた。1時間60分の。

 

 「ひとのよいところをみつけてあるだけ書き出す」

 「自分のいいところを見つけて書き出す」といったワークをやるのだけど、

 前回の入院時のような、効果がない。

 

 「違うんだよ、なんか・・違う

 

 もやもやしていた。規則的な生活、カウンセリング、療養。そろっている、確かにそろっている。でも私の中で、

 

 「このままでは治らない」というなんだか確信めいたものがあった。

 

 私の何か根本を解決しないと・・・入院から1か月半が立っていた。一時帰宅もするが、なんとかできたとしても

 

 「これが、人生でずっと続くのだ」というと絶望する気持ちが強い。

 

 一生精神病院にわけにもいかない、でも育児も家事も仕事もできないじゃ生きている意味ない

 

 新しい主治医に、「死にたい」気持ちも吐露していた。

 

 でも私ももちろん主治医も理解していたのだが「死にたいけれど、別に行動を起こして死ぬつもりはない」だった。

 その気があるら拘束される。

 

 どうしようもない絶望感と不安感。

 そして、この新し主治医(女性)はS先生のように私生活は一切話す余地を与えないひとだったが、会話から子どもがいないことはわかった。子どもがいないと、では産後・子育てうつの治療ができないわけではもちろんないが、S先生のように一緒の目線で話、溶け合う感じは一切なかった。

 

 そんな時に、病院1Fの外来待ちのスペースに見つけた募集の張り紙。

 

 「rTMS治療 臨床研究 被験者募集」

 

 大学病院の募集だった。