【第11回 劉皇叔 北海に孔融を救い 呂布  濮陽で曹操を破る】


~その12~(通算115回)
『曹操と陥陣営』



惨敗を喫した曹操は、幕舎に諸将を集めて軍議を開いた。
このとき于禁が進み出て、
「それがしが今日、山上より眺めましたところ、濮陽の西に呂布の砦があり、さしたる守備兵はいない様子。今夜は敵軍は勝利に酔いしれ、警戒も薄れているはずゆえ、兵を出して討つ好機です。もしあの砦を手に入れられれば、呂布が狼狽するのは必定。これこそ上策と存知まする」
と進言した。
しかし郭嘉は、
「いや、呂布は知恵なき男とはいえ、その配下には陳宮や高順・張遼がいる。奴らが勝った夜に備えを怠るような真似はするまい。仮に砦を取れたところで、あの小さな砦では守り辛く、逆にすぐさま奪還されるのが目に見えている」
と言ったが、
「だからと言ってこのまま何もしないでは始まらん」
と于禁。
曹操は、
「よし、ここは于禁の策で行く。失敗すれば俺の責任だ」
と決断し、曹洪・于禁・楽進・李典・毛カイ・呂虔・典韋の7将を随え、精鋭の歩騎2万を率い、夜にまぎれて間道づたいに進軍した。


一方、呂布は陣屋において将兵をねぎらっていたが、陳宮が言った、
「西の砦は重要なところ。もし曹操が夜襲を仕掛けてきたらどうなされます」
「奴は今日負けたばかりだ。出て来る気などあるまい」
と呂布は酒を飲み、鼻で笑いながら答える。
「いや、あの男は奇策にたけた者。陳宮殿のおっしゃるとおり、こんな時こそ用心すべきかと」
と張遼も重ねて忠告し、高順も、
「ならばこの私が兵を率いて砦の警護に参りましょう」
と言ってくるので、ようやく呂布は忠告を聞き入れ、高順と魏続・侯成に命じ兵を率いて西の砦を固めに行かせた。


さて、曹操は、黄昏時に軍勢を率いて西の砦に至り、四方から突入した。
砦の守備兵は防ぎきれずに逃げ散り、曹操はあっさりと砦を奪い取った。
「よし、作戦は成功だ。呂布め、今頃のん気に酒を飲んでいるのだろう」
曹操は、今夜は砦の守りを固めさせ、明日、全軍をあげて呂布軍本陣を総攻撃すると決めた。


真夜中、月明かりしか見えない頃、高順が兵を率いて攻め寄せて来た。
「む?来たか!全軍戦闘態勢に入れ!今度は我々がこの砦を死守する!」
曹操は全軍に命じてこれを迎え撃つ。
高順は馬を飛ばしながら、暗闇の中の砦を見て言った、
「あの空気・・・大物がいるな。・・・曹操か!」
そして魏続と侯成に命じる、
「魏続!侯成!一気に押し込み、ここで曹操をしとめるぞ!」
「んあ?曹操がいるって?なんで分かる?真っ暗で俺にゃあ何も見えねえぞ!?」
と魏続。
「それが見えるから陥陣営なんだろ」
と侯成。
「なるほど了解。じゃ、曹操のお首を頂戴するかね」
そう言って魏続が馬の速度を上げて真っ先に突入する。


この砦は位置的に重要な場所とはいえ、小高い丘にある簡素な砦であり、篭城して守れるものではなかった。
曹操は、軍の8割を出撃させ、残りの2割と呂虔を砦に残し、事実上の野戦の形となった。

曹操も自ら出撃し、高順軍と真っ向からぶつかった。
今まで暗闇で見えなかった敵軍の『高』の旗印を見た時、曹操は、ようやくこれが高順の率いる部隊だと分かった。
「なるほど強い!」
うなる曹操。
一方高順も、
「さすが曹操自ら率いる軍だ。初戦は勢いに乗じて勝ったが、まともに戦えば、さすがの強さよ」
とうなる。
両軍入り乱れての大混戦となった頃、
李典が慌てて曹操の元へ駆け寄り、
「ご主君!敵側に援軍です!呂布です!呂布が来ました!」
と伝えた。
「これまでか」
曹操は撤退を即断し、全軍に砦を捨てて退却するよう命じた。


曹操は馬を飛ばして逃げるが、その背後に高順・魏続・侯成が追いすがり、正面からは呂布自ら軍勢を率いて現れる。

「陳宮がしつこく言うから来てみれば、ぶざまなものだな曹操」

呂布の方天画戟が闇夜に光る。



          次回へつづく。。。