【第10回 王室に勤めんとして馬騰 義兵を挙げ  父の讐を報ぜんとして曹操 師を興す】



~その8~(通算102回)
『曹操と陳宮、再会』



曹操は、陳宮が自分のためではなく陶謙を救うために来たと知り、内心、面白くはなかったが、あの陳宮が来たのだと思うと、やはりどうしても会いたくなった。

「かまわん。通せ」
曹操は、陳宮を本陣に通すように門番に命じた。


陳宮が幕舎に入ると、曹操はあえて徐州侵攻のことには触れず、陳宮の手を取って迎え入れた。
「公台、よく来てくれた!」
しかし陳宮は、
「孟徳、私がここに来た理由は分かるはずだ」
と言いながら、そっと曹操の手をどかした。
「公台・・・。馬鹿真面目なお前が、この出陣に協力してくれる・・・というわけではあるまい」
「無論、孟徳、お前を止めに来た」
「ならばここは敵地も同然。覚悟はいいか?」
「笑止。刺し違える覚悟よ」
陳宮のその言葉に、そばにいた夏侯惇・夏侯淵・曹仁・楽進・典韋・于禁が一斉に剣を抜き、その切っ先を陳宮ののどもとに突きつけた。
陳宮は微塵も動揺を見せず、曹操から視線をそらさないでいる。
曹操は手で「下がれ」と合図し、夏侯惇たちに剣を引かせた。


陳宮は言う、

「孟徳、お前の父上が殺されたのは悲しいことだ。しかし、これは陶謙殿と話し合って解決すべき問題であり、徐州の民に罪はない。孟徳、正しい判断をしてくれ」
聞いた曹操は、

「公台、奥で2人で話そう」
と言った。

「ああ、いいだろう」

と陳宮が同意すると、夏侯惇が、
「おい、孟徳!」
と慌てて声をあげたが、
「かまわん。お前たちはここで待っていろ」
曹操はそう言って、陳宮と奥の部屋へと入っていった。
たまらず夏侯惇と曹仁が曹操を追おうとしたが、夏侯淵に、
「よせ。孟徳と陳宮にしか出来ん話もある。それに、もし万が一、陳宮がおかしな真似をしようにも、孟徳も剣の達人、やられはせんだろう」
と制された。


待つこと数刻、曹操と陳宮が戻って来た。
安堵する夏侯惇たち。
しかし、2人の表情は険しい。


陳宮は幕舎を出る前に、振り返って言った、
「よいな孟徳。今日交わした3つの約束。決して忘れるな」
「ああ、公台。約束しよう」
「次に我々が会うときは・・・」
曹操は目を閉じてゆっくりと答えた、
「・・・戦場だ」


「ああ。さらばだ孟徳」
「さらばだ、公台」


陳宮は出て行った。
曹操は陳宮の姿が見えなくなるまで見送り、やがて夏侯惇がその寂しげな肩に手を置くと、ようやく幕舎に戻った。



     次回へつづく。。。