【第8回 王司徒 巧みに連環の計を使い 董太師 大いに鳳儀亭を鬧がす】


~その5~『連環の計始動』(通算82回)


董卓は貂蝉の小さな身体を折れんばかりに抱き寄せると、その美貌をまじまじと見つめた。
「いったい何者だ?」
王允、
「歌妓の貂蝉でございます」
「貴様には聞いておらん!女、自分の声で答えよ!」
董卓が迫り、貂蝉が答える、
「歌妓の貂蝉でございます」
「声も素晴らしい!年はいくつだ!?」
董卓がさらに強く抱き寄せるので、貂蝉の骨がきしむ音が王允にまで聞こえてきた。
貂蝉は声を絞り出すように答える、
「じゅ・・・16でございます」
「そうか!」
董卓は貂蝉を放し、少し距離を置き、改めて彼女の足先から頭まで見回して言った、
「貴様、本当に人間であろうな?妖怪か仙女か?俺をどうする気だ?」
貂蝉はその場にひざまずき、
「わたくしはただの歌妓でございます。今宵は董太師様に舞いを楽しんでいただきたく参ったのでございます。お気に召さなければ、どうぞこの場でわたくしの首をお刎ねくださいませ」
董卓は慌てて貂蝉を抱き上げ、
「首を刎ねるなどとんでもない!気に入ったぞ貂蝉っ!うわははは!気に入った気に入った!王允!この娘を俺に譲れ!」
王允は平伏し答える、
「はは。喜んで」
董卓は大いに喜び、
「貂蝉をいただいたからには、相応の礼をせねばなるまい。望みはなんだ?城か?いや、国か?金なら好きな額を言え。女なら1000人集めても対等にはならんな」
と言った。
王允は首を横に振り、
「いやいや。この娘が董太師様にお仕えできるなら、それだけでこの上ない幸せにございます」
と答えた。

董卓は何度も礼を言い、自ら貂蝉を抱きかかえて門まで出た。
その間、貂蝉はずっと何かを訴えかけるかのように王允を見ていたが、王允はうつむいたまま、貂蝉の顔を見ることはなかった。
董卓は貂蝉を車に投げ入れると、自らも車に乗り込み、相国府へと帰って行った。

その車中、貂蝉はずっと董卓にきつく抱き寄せられていたが、ただただ痛みをこらえ、相国府に着くのを待った。


やがて車が相国府の門まで来ると、将兵が迎えに出た。

その中には当然、呂布もいた。
呂布は車に向かって拝礼したあと、頭を上げると、董卓が貂蝉を抱きかかえながら車を降りて来る姿を見て愕然とした。

「変わりはないか?」
との董卓の問いかけに返事も忘れ、呂布はただ立ち尽くしていた。
「奉先、変わりはないかと聞いている!」
董卓が声を荒げると、呂布は我に帰り、
「は!何もございません」
と答えた。
「ならばそこをどけ!邪魔だ!」
董卓は呂布を押しのけ、貂蝉を抱きかかえたまま、屋敷へと入っていった。

呂布は訳も分からないまま2人を見送り、貂蝉も何も言えないまま呂布に見送られた。
 
 次回へつづく。。。