【第1回 桃園に宴して 三豪傑義を結び 黄巾を斬って 英雄はじめて功を立つ】


その7『師廬植』


翌日、劉備は鄒靖とともに手勢を率い、太鼓を打ち鳴らし鬨(トキ)の声をあげて出撃した。

賊軍がこれを迎え討つと、劉備は応戦せずにさっと兵を退き、賊軍は勢いに乗って追撃してくる。

そのまま峠を越えたとき、
「よし、いまだ!」
劉備の合図で軍中から一斉に銅鑼の音が鳴り響き、
「関羽推参!」
「張飛参上!」
山の左右から関羽・張飛の伏兵がどっと討って出る。

さらに劉備も手勢を率いてとって返して攻撃に出た。

賊軍が3方向から攻撃されて敗走するのを、青州の城下まで追い詰めれば、刺史の龔景(キョウケイ)も自ら手勢を率いて城門より討って出て、劉備たちと協力して斬りたてる。

こうして賊軍は討ち破られ、青州の囲みも無事に解けた。


龔景は劉備たちに礼を述べ、兵士たちに酒食をふるまった。
鄒靖が引き揚げようとすると、劉備が言った、
「聞いた話しによりますと、中郎将の廬植(ロショク)殿が、賊の首領張角と広宗県で合戦中とのこと。実はその廬植殿は私の師でございます。私たちは廬植殿の加勢に参りたいと思います」
そこで鄒靖は劉備に別れを告げ、幽州の正規軍を率いて引き揚げ、劉備は関羽・張飛とともに義勇軍を率いて広宗県へ向かった。


劉備は廬植の陣に到着すると、さっそく廬植の幕舎に入って丁重に挨拶をした。
「師匠、お久しぶりでございます」
「おお、よくきてくれた玄徳。何のうしろだてもなく戦火に飛び込むとは、お前らしいな」
「我が身をかえりみず民を救うことは、師の教えでございます」
廬植はとても喜び、ひとまず自陣で指示を待つように命じた。

このとき、首領張角の賊軍15万と廬植軍5万。両軍は広宗で対陣したまま決着のつかない状況であった。
廬植は劉備を呼んで、
「見たとおり、わしはここで賊軍を包囲しておるが、張角の弟の張宝(チョウホウ)・張梁(チョウリョウ)が、穎川群(エイセングン)で皇甫嵩(コウホスウ)殿・朱儁(シュシュン)殿と対陣しておる。わしは大丈夫だから、お前は彼らのもとへ向かえ。お前に官兵1000を与えるので、味方と協力して賊軍を討ち破るのだ」
「我が師のご命令とあらば、すぐさま穎川に向かいます。師匠・・・どうかご無事で」
「ははは。玄徳、お前に心配されるほどわしはまだ老いてはおらんぞ。お前こそ、気をつけて行くのだぞ」
「はい、師匠」
劉備は廬植に別れを告げると、軍を率いてすぐさま穎川へ向かった。


さて穎川では、皇甫嵩と朱儁が軍を率いて賊軍と戦っており、次第に押されはじめた賊軍は長社県まで退き、とある草原に陣を構えていた。
皇甫嵩が言う、
「賊は草地に陣を構えている。これは火攻めの好機だ」
「うむ、さっそく決行しよう」
と朱儁。
皇甫嵩と朱儁は、兵士たちに束ねた草を持たせて敵陣に潜伏させた。

その夜、強風が吹き起こったところで一斉に火を放ち、皇甫嵩・朱儁はそれぞれ兵を率いて敵陣に攻撃をかけた。天を焦がさんばかりの激しい炎に、賊兵どもは慌てふためき、馬に鞍をおく暇もなく、鎧もつけず、先を争って逃げ出した。
張宝と張梁は夜明けまで攻めたてられ、敗残兵をかき集めて命からがら落ち延びる。


そこへ突然、真紅の旗を風になびかせながら、1隊の軍勢が颯爽と現れ、賊軍の行く手をさえぎった。


 次回へつづく。。。


新約三国志演義/坂本和丸著