FGR(fetal growth restriction)に対する経母体的な治療は一般的には有効性が否定されています。つまり、FGRに対する治療としては「胎児のwell-beingを注意深く評価・フォローアップし、できるだけ適切なタイミングで児を娩出すること」が最善の治療であることになります。
とは言っても、胎児のwell-beingを注意深く評価・フォローアップしている期間や胎児の在胎週数が小さく娩出することが児の予後改善につながらないような場合には、どうしても経母体的な治療に頼りたくなるものです。
そこで、エビデンスや有効性には乏しいかもしれませんが、症例によっては効果が期待される経母体的な治療について紹介してみます。
①原因の除去
胎児発育不全の管理の記事で紹介したFGRの危険因子となりうる喫煙・アルコール摂取・薬物摂取・薬物投与などの中止はFGRの改善が期待されます。
②母体合併症の治療
胎児発育不全の管理の記事で紹介したFGRの危険因子となりうる高血圧・糖尿病・腎疾患・炎症性腸疾患・抗リン脂質抗体症候群・膠原病・心疾患などの治療・コントロールはFGRの改善が期待されます。
③子宮胎盤血流の改善
A)安静臥床、特に左側臥位での臥床は子宮血流量の10%以上の改善が期待されます。
B)塩酸リトドリン(ウテメリン®など)や硫酸マグネシウム(マグセント®など)の投与により子宮収縮抑制を行うことで子宮血流量の改善が期待されます。
C)抗リン脂質抗体症候群など血栓性素因を有する場合には、ヘパリンや小児用バファリン®の投与により血液凝固能の改善をはかることで、子宮胎盤血流が改善される可能性があります。
④胎盤における物質移行量の改善
A)糖質の経母体的投与:10%マルトース500mlの点滴静注
B)アミノ酸の経母体的投与:アミノ酸製剤500mlの点滴静注
C)ビタミン剤の投与:総合ビタミン剤やビタミンCを点滴に添加する
D)高濃度酸素の経母体的投与:酸素5~6L/分を朝夕1時間ずつ投与
⑤胎盤機能賦活
A)ソルコセリル®:5%ブドウ糖20ml+ソルコセリル®1Aを1日2回静注
B)ビタミンE:ユベラ®を1日600~1200mg投与
上記に紹介したように歴史的には数多くのFGRの経母体的治療が試みられ報告されてきましたが、いずれも効果に関してはエビデンスが乏しく、安静臥床および子宮収縮抑制のみが今なお行われている治療になります。
もちろんですが、原因の除去や母体合併症の治療の治療が有効であることは当然ですが、多くの場合には原因や母体合併症を有していないこともまた事実です。
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