早産と副腎皮質ステロイド〜後編〜 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 副腎皮質ステロイドの母体投与についての続きです。

 ステロイド療法の効果発現の時期についてです。RDSの予防に関しては最大効果が得られるのはステロイドの最初の投与から7日以内で最後の投与から24時間経過後に児を娩出させたときとされています。しかし、ステロイド投与24時間以内でも(RDSは30%減少) 7日以降でも(RDSは40%減少)それなりのメリットは得られます。IVH・NECの予防については最後の投与から24時間経過後であれば効果が得られます。

 最大効果が得られる期間を過ぎたら、副腎皮質ステロイドを繰り返し投与した方がよいのでしょうか?あるいは投与は1回だけがよいのでしょうか?

 副腎皮質ステロイドの繰り返し投与によって、新生児頭囲の減少・発育遅延のリスクの増大・新生児敗血症のリスクの増大・長期的な中枢神経発達障害などが起こることが分かっています。一方、RDSの予防効果に関しては単回投与と頻回投与では差は認めません。つまり、反復投与にはメリットがないばかりかデメリットすらあります。そのため、現時点では単回投与が基本で反復投与はしないことが望ましいとされています。

 以下はACOG(米国産婦人科学会)のガイドラインです。日本産婦人科学会の診療ガイドライン産科編2008でも同様になっています。
 ベタメタゾン12mg筋肉注射を24時間間隔で2回投与
 デキサメタゾン6mg筋肉注射を12時間間隔で4回投与
 対象は早産の危険のある妊婦で、未破水例では妊娠24~34週、破水例では妊娠24週~32週
 投与は1クールのみで反復投与はしない


 ところで、母体への副作用はどうでしょうか?副腎皮質ステロイド投与により子宮収縮が増強します。これはデキサメタゾンよりもベタメタゾンの投与で顕著です。したがって、ファーストチョイスはベタメタゾンの投与ですが、胎胞突出例や破水例では子宮収縮の予防を考えてデキサメタゾンの投与が考慮されることになります。副腎皮質ステロイドと子宮収縮抑制薬が併用された場合、母体の肺水腫のリスクが増大します。これは塩酸リトドリン単独の場合よりも硫酸マグネシウム併用の場合に多く、また多胎妊娠でリスクは増強します。分娩方法でも帝王切開例では経腟分娩例よりも有意に肺水腫のリスクが増加します。妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠では耐糖能が低下し、インスリン必要量が増大する可能性があります。したがって、コントロール不良例での投与は慎重に考慮する必要があります。

 その他の問題点として、わが国においてはベタメタゾン(リンデロン®)およびデキサメタゾン(デカドロン®)ともに胎児肺成熟の保険適応はないので、保険適応外使用であり十分な説明と同意が必要であることがあげられます。

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