お正月を安全に過ごすために─“ただのお餅”が想像以上に危険になる理由─

お正月を安全に過ごすために
─“ただのお餅”が想像以上に危険になる理由─

気づけば、また一年が終わろうとしています。
年々時間の流れが早くなる気がしますが、きっと気のせい…いや、半分は本当かもしれません。

さて、お正月といえば「お餅」。
でも実はこのお餅、毎年“命に関わる事故”のトップニュースになる食べ物です。

「そんなの知ってるよ」という声も聞こえてきそうですが──
実は事故の詳細を知っている人は意外と少ないのです。

■ なぜ毎年「お餅の窒息」は繰り返されるのか？

消費者庁の分析（2018〜2019年）によると、65歳以上の餅による窒息死亡は2年間で661人。
そのうち…
・43％が1月に集中
・特に“三が日”が最多
・男性は女性の2.6倍
という特徴が分かっています。

さらに最近は、高齢者施設や在宅介護の現場から

「飲み込みの機能が落ちているのに自覚がない」
「家族が“昔のように食べられる”と思い込んでいる」

という声が聞かれます。

■ 年齢とともに起こる“3つの変化”

１）咀嚼力の低下（歯・顎の筋肉の衰え）
２）嚥下機能の低下（ムセの反射が弱くなる）
３）唾液量の低下（餅が喉に貼り付きやすくなる）

これにより、気管に入ったときむせて押し戻す力が弱くなります。
いわゆる「神経と筋肉の加齢変化」であり、誰にでも起こる生理現象です。

■ 最近のニュース・報告からわかる意外なポイント

最新の救急医療の報告では、
餅の窒息はただ「大きかった・硬かった」だけでなく、
１）食べている人の姿勢
２）食べる環境（会話・ながら食べ）
３）朝イチの「まだ唾液が少ない状態」
といった「状況の組み合わせ」が事故を増やしていると指摘されています。
ですので、それを踏まえて考えると
１）テレビを横目に見ながら
２）口の中に餅が残っている状態で会話
３）朝食に餅から食べ始める
これら３つはリスクが高まりやすい傾向があります。

■ 安全に食べるための“科学的に正しい工夫”
最新の介護・嚥下リハの研究をもとに、
高齢の方でも「安全にお餅を楽しむ」ための方法をまとめました。

① 餅は「小さく・やわらかく」が鉄則
・一口サイズにカット
・焼き餅より“汁物に入れる”ほうが柔らかく飲み込みやすい
・大根おろしで表面の粘着性を下げる（嚥下リハでも推奨）
② 食べる前に「口の準備」をする
・口を軽く開閉する
・唾液腺マッサージ（数十秒で唾液量アップの報告あり）
・一口目を“お茶・汁物”にすることで喉を潤す
ちなみに、これは誤嚥予防で理学療法士や言語聴覚士が実際に行うことも多いです。
③ 食べる姿勢を整える
・椅子に深く座る
・少しアゴを引く（誤嚥率が下がる）
・テレビや会話は控え目に
「姿勢を整えるだけで安全性が変わる」のは多くの研究でも示されています。
④ “介護食餅”“代用餅”の活用
市販される介護食餅は
・粘りを弱める
・小さく作られている
・急激に固くならない
など、嚥下機能が落ちた方への工夫が凝縮されています。
普通のお餅よりも安全に、でも美味しさ変わらずを意識した選択肢です。

■ 万が一「詰まったとき」の対応（知っておくと安心）
お餅は粘りが強く、通常の異物より救助が難しい食材。
消防庁は次のポイントを強調しています。
● すぐに119番：数分の遅れが命に関わります。
● 自分で取り出そうとしない：指を入れると押し込んでしまう危険があります。
● 吐かせるには「背部叩打法」が基本：手のひらの付け根部分で左右の肩甲骨の中間あたりを、数回以上力強く叩きます。

※腹部突き上げ法もありますが、高齢者には慎重に行う必要があります。実施方法は政府広報オンラインをご覧ください。