二年に上がった年の、梅雨の事だった。
俺の地元では、梅雨とは言うものの雨はほとんど降らない。
期間中に三日降ればいい方だ。
しかし空気は相応に湿っていて、特有の息苦しさを感じるのだった。
そんなある日。
じめじめと鬱陶しい空気の中、しめじめとした表情をしながら自転車を漕ぐ。
雨は好きじゃない。雨が降りそうな日も好きじゃない。
必然的に梅雨時期は俺の気分も曇る場合が多い。
学校が終わり、家に帰る道のりでビルの前を通る。
都会にあるような高層ビルと比べれば、ビルを名乗るのもおこがましいような慎ましい建物だが、一応、5階まであるビルである。
そこを通った時、不意に上から声が聞こえた…気がした。
ブレーキをかけて上を仰ぐ。
口を大きく開いて、「あ」という声が聞こえてきそうな表情をした女性が
ビルの上から、降ってきた。
「で、落ちたはずの女はどこにもいなかったと」
先輩は楽しそうに俺の話しを聞いてくれた。
「はい。まあ、波長があったってやつだと思います。何か知りませんか」
昨日、空から降ってきた女性は最初からいなかった。
俺程度では滅多にないことだが、そういう感覚の強い人はたまに『残留思念』を目撃するらしい。あれは過去にあった飛び降りの映像なんだろう。
「お前はあれだな。ちょと地元のニュースに目をやるべきだな。ちょっと待ってろ」
押入れに頭を突っ込んで奥を探る。先輩のアパートの押し入れは魔境だ。
よく分からないお札や、まず何なのかがわからない塊なんかが多数入っている。
先輩はその中から、ごく普通のファイルを取り出した。「何ですか、それ」
先輩はファイルのページを適当に開き、ぱらぱらめくっていく。
「スクラップぶーっく。確か二週間くらい前の記事だ。……あった」
小さい記事だ。
28歳の女性が自殺。
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