渡米して1週間後、ライフサイエンスを主体とした研究所で博士研究員として働き始めました。そこで勤務した期間は1年半程度でしたが、この間に経験したことは仕事の面だけではなく実生活においても相当濃いものでした。

まずは何と言っても、これまで触れたことのないケミストリーを軸にした研究にどっぷり浸かれたことは、自分のキャリアにとって非常に大きかったと思います。実際、このときに培った知識・専門性を現在の仕事に活かすことで幸運にもブレイクスルーを生み出すことができ、会社にも大きく評価していただきました。日本にいたままではおそらく身に付くことはなかったセンスだと思います。

そしてもう一つ、博士研究員時代の収入はなかなか切実で、サンディエゴで生活する上ではかなり厳しい額面でした。手取りの半分以上がアパートの家賃で消えるような状況であり、この時期は妻も子供たちも本当に我慢・協力してくれて、家族みんなで身を切るような節約生活を送っていました。今では思い出話として家族の間でネタにすることもありますが、辛い思いもたくさんさせましたし、理解してくれた妻と子供たちには感謝の気持ちでいっぱいです。そして良い意味でこの時の節約癖は今でも家族に根付いていて、それは経済的にはもちろんのこと、子供の教育面でもとても良かったかなと思っています。

加えてそんな過酷な状況でしたので、当然家族で車は一台。平日は子供の学校の迎えがあったので、昼の2時ごろに一旦ラボを抜けて、ピックアップ後に家まで送り届けて またラボに戻るといった生活をしていました。なんだかんだ結局1時間半くらいラボから離れることになるので、できるだけ研究を効率的に進めるため、日本で会社勤めしていた頃よりも更に意識して実験計画を立てる癖が付きました。

辛く苦しいことも多かった渡米後の博士研究員時代でしたが、振り返ってみると自分の人生においてとても意義深い経験と時間を与えてくれたのではないかと思っています。