自分が働くようなバイオテックの場合、成果を示さなければ会社のシャットダウンに即刻繋がるため、やはりとても不安定で厳しい世界だと思います。大手になればシャットダウンということはなかなかないことですが、それでも雇用に対する安心感という面で日本の会社に勝ることは絶対にあり得ません。こちらで働いていると、どこどこの会社がレイオフ・リストラクチャリングしたなんていう話を定期的に聞きます。こちらは雇用が流動的なため、製薬コミュニティなるものが発達しており、人的ネットワークがしっかりと広がっています。そのためそういったオフィシャルではない情報もなかなかの鮮度で簡単に回っていきます。
レイオフなんていう言葉を聞くと、ある種反射的に、結局アメリカは給料が良くてもそんなのだからやっぱり日本の方が良いという人が多数なのではないかなと思います。ただ、人というのはそういう環境に置かれると慣れるものというか、相応の覚悟ができるように思います。自分の場合もそうでした。
そして、一度雇ったからには切らないという日本の雇用体制って本当に良いものなのかなと思ったりもします。そういう企業風土は正当な評価や報酬を阻み、賃金安の大きな一因にもなっています。その上、クビにならないという事実は人によっては怠惰を生みます。頑張っても大方報われず、頑張らなくても生活は保証されている。これはどう考えてもおかしい企業文化だと自分は思います。
日本の会社にいた時、『組織編成』なるものが毎年同じ時期にお祭り行事的にありました。ただそれは、箱(部署)の名前を変えて、中身(人)をチョロチョロっと混ぜておしまいなだけのママゴトだったと、今では感じます。正直言って何の納得感もなかったですし、みんながちょっとソワソワするだけの季節イベントでした。加えて組織の上の人たちもその風物詩の中で席替えするものだから、時にはその部署の専門性や経験がほとんどない人がトップに就いたりしました。3年以上経った今でも同じような状況なのかもしれません。
アメリカの場合は組織編成で本当に人が会社を去ったりするわけですが、給与の原資を割る母数が減るわけで、時にはそういったこともしながら会社にとって本当に必要な部署や人材を残し、彼らに対する高い給与や報酬を確保するわけです。
そして切られないように、あるいは切られたとしても次のポジションにありつけるように、各人はパフォーマンスや成果、能力向上を含めた自分の市場価値にとても敏感です。
何かを専門として働く上では、この感覚はとても健全だと思います。