鳥の鳴き声に夢から目が覚めた

窓を見ると外は白み

部屋が明るんでいる

時刻はまだ朝の5時

学校に行くにはまだまだ早い


ん…

隣りで寝返りを打つ声

それにつられてオレも窓とは反対に向きを変える

目の前には心地良さそうに眠る顔があった

小さく開く口

聴こえる寝息

寝息に揺れる黒く長い髪

寝顔の1つ1つにいとおしさを覚える

起こさないようにそっと

その艶やかな髪を耳にかける

もう少し眺めていたい

2度寝しようとも思った

でももったいない

いつもはこんな風景見られないしな

ん…

また寝返りを打つ彼女はふとんを蹴っていた

こうして見ているとまだまだ子供に見えてしまう

そう思いながらふとんをかけ直す

ふとんをかけられると

ふとんの感触を確かめるように

くるまっていた

オレはその微笑ましい光景を

ただ眺めていた


………

体が揺すられている

少し目を開けると

窓から陽射しが射し込んでいた

その眩しさに腕で目を覆う

光から逃げるように隣りを向くと

制服を着た椿がいた

結局オレは寝てしまったのか

おはよ流真

起きないと入学式に遅れちゃうよ

優しく微笑む彼女

オレの寝ぼけ眼と目を合わせ

笑ってくれる

その笑顔にオレも

自然と微笑んだ



学校前の桜並木

春を強調するかのように

桜は華やかに舞う

確かに桜は綺麗だ

人を魅了するものがある

でもオレにとっての

春の花は…


さて

風流韻事はここまでに…


風見は軽やかな足取りで学校に向かった


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白ネコ  すやすや
入学してから5日経った今日は土曜日で、花里凛香は部活のため学校に来ていた。


一昨日、部活見学をした凛香は次の日に入部届を出していた。
そのため、仮入部期間ではあったが土曜日でも部活に来ていたのだ。

1年女子で部活に来ているのは4人程であった。どうやらそれは、男子テニス部でも同じらしく4、5人ほどしか1年生部員は見られない。

1年生男子部員の中には波風や風見の姿もあった。

その波風の姿を見た凛香は昨日のことを思い出さずにはいられなかった。




入学して4日目の昨日、波風と風見はテニスコートへ向かっていた。

すると、前方に凛香が歩いているのが目に入った。

「花里、今から部活か??」

波風に声をかけられ、凛香は振り向いた。
「えぇ、そうよ。今日は波風君も部活に出るみたいね。」

昨日と同様、少し素っ気なく話す凛香。
これには波風も少し慣れたようで気にする素振りも見せなかった。

「おぅ、今日からは毎日参加するつもりだよ。」

「そっ。」

相変わらず凛香は素っ気ない。

すると風見が凛香に声をかけた。

「そういや花里、お前確か中学でテニス部だったっけ??」

低めのよく通る声に加えて高身長。
慣れない人にとっては、なかなかの威圧感であった。

凛香は一瞬驚きはしたが、表情を変えずに話す。
「そうよ、よく知ってたわね。」

「まぁな、テニスには興味があったからな。」

風見も凛香と同様に素っ気なく答えた。

「そうなんだ。でも確か風見君って帰宅部だったわよね??」

凛香は思い出したかのように風見に聞いた。

「そっ。オレは帰宅部だよ。翔と一緒。」
そう言って波風と肩を組む風見。

「ふぅん。2人とも帰宅部か。じゃあ、レギュラーは難しいだろうけど、頑張ってね。」

最後に笑顔を見せた凛香はスタスタと先に歩いて行った。



「いやぁ、花里はなんか雰囲気が可愛いよなぁ。」
波風は微笑んだ。

「そう??中学は同じだが、ほとんど話したこと無いから、よくわからん。」
風見は頭を掻きながら答える。

「ははは。お前はそうかもな、リュー。」

2人は笑いながらテニスコートへと歩いて行った。



部活開始の時刻となり、学校にチャイムが鳴り響く。
それと同時にテニスコート前には部員達が整列をしていた。

女子テニス部の顧問は形だけの顧問で、練習は男子テニス部の顧問が一緒に見ていた。
そのため、整列も男子部員の隣に女子部員が並ぶ。

整列が終わると顧問の佐々木英智(ささき・ひでのり)が口を開いた。

「授業お疲れ様。今日も張り切っていこうな!!」

佐々木は非常に明るい顧問で、年齢も23歳と非常に若い。

「1年生もぼちぼち来てるな。ん??」

佐々木は1年男子に目を向けると高々と声を上げた。
「おぉ!!翔にリューマじゃねぇか!!お前等ここを受けたのか!!」

顧問の佐々木がやけに嬉しそうにしていることに、部員達は何事かと騒がしくなる。

「先生、どうしたんですか??知り合いですか??」

唯一の3年生である男子テニス部部長が佐々木に質問した。

「あぁ、スマン。あいつらはな、オレが通っていたテニススクールで一緒だったんだ。まぁ大学生になってからはオレがバイトでコーチをやっていたから、オレの教え子ってやつか。」

そう顧問が説明をすると部員達は驚いていた。

「翔、リューマ。確かお前等が中2の時までだっけ??オレがコーチをやってたのは。」

「そうっすよ。中2の冬まで教わっていました。」

そう波風が答えると何人かの部員達が「おぉ~。」と声を漏らした。

「ははは、そうかそうか。懐かしいな。まっこれからよろしくな!!」
佐々木は大声で笑った。

「…さてと。よし、じゃあ練習を始めるか!!Aチーム(レギュラー)は1番コート、Bチームは2番・3番コートで練習な!!1年生はとりあえず今日は様子見ということですまないがボール拾いを手伝ってくれ。以上、解散!!」


3年生と2年生は各々コートへ移動した。

凛香もボール拾いをするため移動をするが、波風達のことが頭から離れなかった。

(何よ、あいつら!!散々帰宅部って言ってたのに、普通にテニス経験者じゃない!!素人扱いして小馬鹿にして…うわ、あたし超格好悪いじゃん…。)

そんな凛香とは反対に、波風と風見は佐々木と話したり、先輩部員と話したりと楽しそうにやっていた。

それを見て余計に腹が立つ凛香であった。


一通りの練習を終え、この日の部活は解散となった。

「よぅし、じゃあ1年生は集合。」

佐々木が声をかけ1年生部員が集まる。
佐々木の両隣りには男女それぞれの部長がいた。

「とりあえず質問なんだけどさ、テニス経験者の人ってどのくらいいる??」

佐々木の質問に手を挙げる数人の1年生。

「なるほどなるほど。じゃあねぇ、今からその人達がどのくらい打てるか見てみたいと思う。」

佐々木の質問に1年生達は少し驚いていた。
そんな反応に気付いたのか佐々木は「打ち合う相手は部長じゃなくてオレだからさ、あまり気張らずにやってよ。」と微笑み、場を和ませた。

「じゃあ、5分後に女子から見ていくから、それまで準備運動をしてくれ。」


そう告げた佐々木は1人コートに入り準備運動を始め、1年生と佐々木の打ち合いは始まったのだった。




そんなやり取りが昨日行われ、打ち合いの結果として今、男子のAコートには波風と風見が練習に参加しているのであった。

凛香は女子のBコート。

対して凛香が素人扱いした波風と風見はレギュラー組がいるAコート。

凛香は騙された思いで一杯であった。


凛香を含め他のテニス経験者達は中学でやっていただけあって、昨日の打ち合いではいい打ち合いをした。
しかし、波風と風見はレベルが違っていた。

凛香達は佐々木にあしらわれている感じであったが、波風と風見に対しては佐々木も手を抜かずにやっているというのが一目瞭然であったのだ。


今のAコートでの練習でもレギュラー組相手にまともに打ち合っていた。

と、いうより打ち勝っていた。

それくらい、2人の実力は見てわかるものであった。

そんな波風と風見を横目に凛香は練習に励み、本日の練習は終わりを迎えた。


(絶対にあいつらを見返してやる…!!)

そう誓う凛香であった。


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白ネコ   飛翔
波風はテニスコートへ向かう途中、下駄箱で花里凛香の姿を目にした。

「よっ、花里。今帰るところか??」

波風は気軽に花里に声をかけた。

靴を履くためしゃがみ込もうとしていた凛香は動きを止めて波風を見た。

「あら、波風君。私は今から部活見学に行くところよ。」

笑顔ではあるが、少しとげのある口調で説明をする凛香。

波風は下駄箱から靴を取り出そうとしていた手を止めた。
「なあ、ひょっとしてこの前のこと、まだ怒ってる??」

凛香は波風をじーっと見てから靴を履き立ち上がる。

「何のことかな??」

不敵な笑顔を浮かべながらそう口にし、「では、私はこれから部活に行きますので。」と、あえて慇懃無礼な態度をとり、立ち去ろうとした。

凛香が背を向けると波風は慌てて声をかけ、「…待て待て。」と急いで自分も靴を履き凛香の隣に並んだ。

凛香は訝しげな表情をした後、立ち止まり諦めたように口を開く。

「はぁ。何よ、もう別にこの前のことは怒ってないわよ。」

溜め息混じりで口にする凛香はどことなく表情が柔らかくなっていた。

凛香の言葉を耳にした波風は心から「マジか!!良かった~。」と安堵の声を上げ「じゃー改めてよろしくな!!」と凛香に笑顔を向けた。

波風に笑顔を向けられた凛香は少し恥ずかしくなり「よ、よろしく。」と口を尖らせ照れながら口にした。。

入学式の日と違って凛香の表情が豊かで波風は嬉しかったが、何より面白く思っていた。

(こいつの照れ隠しは可愛いな。)

波風がそんなことを考えてしまう程に凛香は考えていることが顔に出やすい。


「あんた、恥ずかしげもなくよくあんなこと言えるわね。」

昇降口を出て少し歩くと、静かだった凛香が声を潜め口を開いた。

「あんなことって??よろしくって言ったこと??」
「そう!!」

まだ恥ずかしいのか、凛香は顔を赤らめている。

「いや、まあ挨拶みたいなもんだから恥ずかしくはないな。」

波風は他愛もなく口にしてしまう。

「そういや花里は何の部活をするつもりなんだ??」

波風が凛香に尋ねると「波風君と同じテニス部よ。」

凛香は波風が肩に掛けていたラケットを見ながら答えた。

「あーだから歩く方面が一緒なのか。花里は中学でテニス部だったの??」


波風が凛香に尋ねると、春らしい肌に心地よい風が吹いた。


凛香は長い髪を手で抑え、流れる髪を耳にかけながら答える。


「そうよ。中学時代はテニス部だったわ。そういう波風君も中学でテニス部だったの??」


春の風が気持ちいいのか、凛香は目を細め笑顔を見せていた。


凛香の言葉は聞こえていたが、波風は凛香の何気ないその仕草に一瞬言葉を失う。

入学式前に桜並木で目にした光景と重なったからである。

綺麗、とさえ無意識に思ってしまっていた。

「ちょっと、波風君??なに無視してるのよ。」

ぶすっとした凛香に脇腹をつつかれ、ようやく我に返った。

「あ、あぁ。スマン。オレは中学では無所属。つまり帰宅部だな。」

波風は何とか明るく答える。

「ふぅん。いかにも運動やってそうな体型っぽいんだけどな。ここのテニス部、ここらの地区じゃなかなか強いみたいだけど、大丈夫なの??」

凛香のからかうような口調。

「まー大丈夫でしょ。オレ運動出来るほうだし。」

凛香はからかうような目つきで「へぇ。」と頷いた。


たわいの無い会話をしていると、少し先にテニスコートが見えてきた。

同時に波風は凛香に聞きたいことがあったことを思い出した。

「花里、1つ聞きたいことがあったんだ。」

花里はテニスコートを眺めながら「何??」と返す。

「この前、一緒に歩いていた男の子は花里の弟…だよな??」

「そうよ、弟よ。」

前を見たまま話しているので顔は見えないが、凛香は少しだけ優しい声になっていた。

「私の子供ではないから。」と嫌味っぽく付け加えた。

「ははは…。いやぁ、年も離れてるし、接し方もなんかそれっぽかったからな。」波風はばつが悪そうに説明をした。

「だから、『お母さん』なんて言ってしまいました…。」

凛香は勢い良く波風を見ると「あたしがそんな年に見える!?前にも言ったけど、あたしはまだ15歳なの、15!!」

「いや、だから『若くて綺麗なお母さん』って言ったでしょ。その言葉の通り本当に若いお母さんだなと思ったんだよ。」

その言葉を聞いた凛香は先程までの勢いがなくなり、「そんなお世辞みたいな言葉、わざわざ付け加えなくていいわよ…。」と俯き加減に言った。

波風は凛香の反応に気付く。

(また照れてるのかな??)

そう思い、凛香の顔をじーっと見つめた。

凛香はなかなか顔を上げようとせず、地面を見ながら歩く。

凛香の行動を見つめる波風は面白がっていた顔から、いつの間にか穏やかな顔つきに変わっていた。

「おい、花里。」

顔を上げ、波風を見る凛香。

「若いって言ったのも、綺麗って言ったのもお世辞じゃねぇから。」

笑顔で波風は言う。


「ありゃ、えいち君、来てないじゃん。」

突然、波風はテニスコートを見ながら独り言を口にした。

「なら帰るか。」

「花里、顧問来てないし、今日はオレ帰るわ。部活頑張れよ!!」そう言い残し、波風は颯爽と去っていった。


呆然とする凛香の顔は真っ赤であった。

言いたいことを言って立ち去った波風を思い出すと本当に恥ずかしくなる。

「大人のお世辞ならまだわかるわ。けど、同い年の15歳の男子よ!?若いって同い年のあたしに言うのもおかしいし!!」

凛香は気を紛らわせようと独り言を呟いていた。

凛香は思い出す。

「でも本当に綺麗に見えたのかな。」

そう口にするとくすぐったくはあるが、嬉しさが自然とこみ上げてきた。




その日の夜、風見が波風のアパートに来ていた。

「じゃぁ、結局部活は行かなかったんだ。」

「そっ、だから明日から行くわ。えいち君とも会っときたいしさ。明日はリューも行くだろ??」

「おう、明日からは行くぜ。」

素振りをする波風とゲームをやる風見は淡々と話していた。

「そういや、今日は家の手伝いだったの??」
波風はふと思い出しことを尋ねた。

「いや、椿と会う予定があったんだ。」

「あぁ、椿ちゃんね。それでか。相変わらず仲良しで羨ましいなぁ。」

からかう波風に対し風見は「だろ??」と振り返り、ふざけた顔を見せた。

「まぁ、椿とは何だかんだで付き合いも長いしな。」

と、風見は改めて確認をするかのように話した。

「多分、今の関係は変わんねぇだろうな。」

そう何気なく話す風見を波風は羨ましく思った。



風見はとにかく白石椿(しらいし・つばき)に対し一途であり、椿の話をすると表情が柔らかくなるなぁ、と波風は思っていた。


―大切なものは自分より大切にする―


それが風見の性格の特徴であり、波風が最も尊敬しているところである。

そんな風見の性格を波風は好きであった。

まぁ風見自身はそんなことを主張したり意識したことはないのだが…。



この2人はお互いの性格を理解し、良い部分も悪い部分も知っている。

悪い部分を含めて相手の性格を受け入れられる。

それが出来なければただの『友達』であり、決して『親友』とは言えない関係に波風と風見はなっていただろう。

それが容易に出来てしまったからこその関係が今の2人であった。


ゲームをしていた風見が手を止め、波風に話しかけた。

「いつの間にか、こんな時間でした。遅くまで悪かったな。」そう言うと立ち上がり玄関に向かった。

波風も玄関に向かって「ははは、また来いよ。1人は寂しいからな。」と、白い歯を見せながら笑った。

風見は表情を緩め「ん、じゃな。」と言うと波風のアパートを後にした。

波風は素振りをしていたラケットを片付け背伸びをする。

「さてと、シャワーを浴びて寝ますかね。」



こうして長いようで短い1日が終わりを迎えた。



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白ネコ   外界への憧れ