太神楽芸の海老一染之助師匠が亡くなられてしまった。
15年前に亡くなられたお兄さんと一緒に、「海老一染之助・染太郎」のコンビで、日本中のお茶の間を明るくしてくれたのは、もう20年以上も前のことになるのか。
回している傘の上で金輪を回して「金回りがよくなる」という決め台詞を言う芸は、いつも同じだけれども、そのたびに笑わされていたのである。
以下、決め台詞列挙。
「あちらは肉体労働、こちらは頭脳労働」
「これでギャラはおんなじ」
「いつもより余計に回しております」
「升が回っております。これで商売ますます繁盛。」
この二人が「おめでとうございます。」の掛け声で出てくると、本当に明るい気持ちになったものである。
時は1989年前後。
昭和天皇崩御の頃、この「おめでとうございます」という言葉を自粛していた時期があった。
このお二人にとって、ずいぶんとつらい時期だったそうである。
「おめでとうございます」の代わりに使った言葉が「ありがとうございます」。
ああ、この話ももう30年近く前になるのか。
それから、バラエティの「どっきりカメラ」でこの二人が騙された時のこと。
たしか、イギリスかどこかで、警察の検問に引っかかって逮捕されそうになった時のこと。
(もちろん、「ドッキリ」である。)
お兄さんの染太郎師匠の方が、堂々と英語で渡り合っていたのである。
発音とかは、純粋なジャパニーズイングリッシュだったのだが、意図が相手にきちんと伝わる英語だったのである。
昭和一桁前後の方たちで、英語を学ぶ機会がほとんどなかった世代。
どこで覚えたかというと、終戦直後の米軍のキャンプ周りで芸を披露していた時、生活の中で学んでいったのだそうだ。
そして、染之助師匠は日本舞踊の名取。
あの太神楽での所作は、日舞に基礎があったのである。
日舞や英語、一般市民が身に着けたくて堪らない技術に裏打ちされた芸を筆者たちは、テレビで堪能していたのである。
海老一染之助師匠のご冥福を心よりお祈りします。